第7話 約束
「終わったー!遊ぶぞぉぉぉ!」
葵は心底嬉しそうだ。
「葵ちゃん振り切ってるねぇ」
「あおちゃん水を得た魚の様だよねぇ」
ほのぼのカップルは穏やかに微笑み合う。
そんな中、私はバタバタと急いで学校の荷物をまとめていた。
「あれぇ?はるちゃん今日急ぎ?」
「バイト先で欠員出ちゃって。人足りないから来てくれないかって」
「え、遥バイトなの?テスト終わったばっかなのに」
「二年になってから店に新人増えて人多くて。新人にシフト譲ってほとんど入ってなかったし、大丈夫」
「そういえば」と拓真が話しかけてくる。
「はるちゃんってどこでバイトしてるの?」
「駅からちょっと行ったとこにあるドーナツショップ」
「へぇー知らなかった」
拓真は意外そうな顔をする。
「朔知ってた?」
「知ってた」
「あー?知らなかったの俺だけかよー」
ぐすん、と拓真は悲しそうに泣いたふりをする。
そんな拓真を由乃が横で大袈裟に慰めていた。
「ごめん、私行くね!明日みんなでどこ行くか決まったらメッセージ送っといてー!」
私は教室を出て急いでバイト先に向かった。
「……あのさ、みんなこの後暇?」
拓真は悪戯に笑っていた。
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「いらっしゃいませ!」
駅から五分ほど歩いた所にあるチェーン店のドーナツショップ。
お客さんが選んだドーナツを数えて会計、持ち帰りなら包み、店内なら皿に盛るのが主な仕事。細かいことをいえば他にもあるが、基本難しいことはなく、私はとても気に入っていた。
一年生の頃は放課後の大半をここで過ごした。
進級してからは新人が増えたこともあり、シフトを新人優先で譲っていたので久しぶりの出勤。
去年まではバイトに熱中していたけれど、自分の未来のことを考えたり、朔や拓真とも仲良くなったこともあり、バイト三昧の日々から離れることにした。
今年は視野を広く持とう。
そう思い、友達との時間を大切に過ごすことにしたんだ。
〜ピピッピピッ
小鳥のさえずりのような音と共に、店内入口の扉が開く。
会計カウンターから少し覗くと学校終わりの高校生達が入ってきたみたいだった。
私はいつも通り、営業スマイルで入店を歓迎する。
「いらっしゃいませー!」
「へー!ここがはるちゃんのバイト先ね〜」
「はるちゃーん」
「あ、遥〜!きたよ〜」
「お前らうるさい」
見覚えのある顔に思わず固まる。
騒がしい仲間たちが来てしまった。
「あ、ここは自分で取るタイプなのね、由乃は何にする?」
「んー、その生クリームいっぱい入ってるやつがいいなぁ」
「うちはパイ系にしよー、佐伯くんは?」
「もっちリング」
騒がしい四人組は々ドーナツを選び終わると、私の担当するレジへと進む。
「いらっしゃいませ。お持ち帰りですね。」
「まだ何も言ってないけど!?」
拓真が焦って「店内!店内!」と訂正してくる。
「チッ」
「本音が!本音が態度に出てるよぉ!?」
私達のやりとりが面白いのか葵はお腹を抱えて笑っていた。
「まぁ本気で嫌だったら学校から近いここでバイトしてないから。急にどうしたの?」
私は後ろの棚から皿を出して慣れた手つきでドーナツを皿に盛る。
レジで一つ一つ打ち込み、お会計も進める。
「いやー、場所決めるならはるちゃんもいた方がいいかなって気持ちと、残り9割は好奇心。」
「チッ」
「アハッハハハ!ヒー!」
葵は心底楽しそうに笑う。
「たくちゃんがごめんねぇはるちゃん」
少し申し訳なく思ったのか由乃が謝った。
「冗談!一割は私のこと思って来てくれたんだよね。仕事してるから直接会話は出来ないけど、なんか話したい事あったらここまでドーナツ買いに来て」
「まさかの会話するのに課金方式」
拓真が横からしっかりツッコミを入れる。
葵はそろそろ呼吸が苦しくなりそうだ。
「はい。そこの席も空いてるし、奥の席も空いてるからごゆっくりどうぞー」
レジをいつまでも占領しているわけにはいかない。
四人を座席へと見送った。
一時間くらい経った頃、レジカウンターから店内の掃除に出ると四人はまだ話し込んでいるようだった。
私は誰も座っていないテーブルを拭き上げ、備品を綺麗に整えるとまたレジカウンターへと戻る。
使ったダスターを消毒バケツに入れ、新しい物を用意しているとレジに人影が近付いてきた気配を感じ、顔を上げる。
レジ前で朔がドーナツを持って立っていた。
「朔。ドーナツおかわり?」
「おかず系も食べたくなった」
「わかる。甘いの食べると食べたくなるよねー。温めて良い?」
「頼む」
朔に許可を得るとパイをレンジに入れ、温める。
「明日、映画になったぞ。」
「そうなんだ。何見るの?」
「推理アニメのやつ」
「あーあれ面白そうだったもんね、何時?」
「10時に駅前」
「了解」
「これ食べ終わったら俺ら帰るわ」
「はーい、じゃあまた明日ね」
温まったパイを取り出し、朔に渡すと見送るように手を振った。
(映画なんていつ振りだろう)
友達と出かける自体、ほとんどしてないのに大人数で出かけるなんて初めてかも。
未経験の出来事に、私は柄にもなく心を躍らせていた。
次の日、9時50分。
集合時間の10分前だった。




