夢を追い続けた少女とその隣で支え続けた少年
結婚の発表から数か月後。
仕事の合間を縫って準備を進め、
ついにその日がやってきた。
夏帆と春人の結婚式の日。
式場の控室。
純白のドレスを着た夏帆は、鏡の前に座っていた。
胸が落ち着かないほど高鳴っている。
「大きなステージより緊張してるかも……」
思わずつぶやくと、隣でヘアメイクをしていたスタッフが笑った。
「そういうものですよ」
夏帆は、そっと左手を見る。
指には、あの夕焼けの公園でもらったリングが光っていた。
一方、別の控室では春人がネクタイを直していた。
鏡に映る自分を見て、小さく息を吐く。
「……緊張するな」
友人が肩を叩く。
「今さらかよ」
春人は少し笑った。
「いや……
夢を追いかけてる夏帆の隣に、ちゃんと立ててるかなって思って」
その言葉に、友人は言った。
「ずっと隣にいたやつが何言ってんだよ」
春人は、少しだけ照れたように笑った。
やがて、式が始まる。
扉が開く。
静かな音楽の中、夏帆は一歩を踏み出した。
バージンロードの先には、春人が立っている。
目が合った瞬間、
中学生の頃の音楽室が、ふっとよぎった。
ただ歌っていた日。
夢を語った日。
泣いて別れた日。
再会した日。
全部が、今につながっている。
春人の前に立つ。
こんなに近いのに、少し照れくさい。
牧師の言葉が静かに響く。
「病めるときも、健やかなるときも、夫婦としてお互いを愛し、生涯を共にする事を誓いますか?」
夏帆は、はっきりと答えた。
「はい、誓います」
春人も続ける。
「誓います」
指輪の交換。
春人が、ゆっくりとリングをはめる。
少しだけ手が震えている手を見て、夏帆は小さく笑った。
「緊張してる?」
「そりゃ、するでしょ」
小声のやり取りに、前列の友人たちが少しだけ笑った。
「皆の前でキスするの少し恥ずかしいね」
「そいう事言われたら余計に恥ずかしいだろ」
夏帆は笑って、目を閉じた。
春人はそれに応えて、キスをする。
誓いのキスのあと、大きな拍手が広がる。
フラワーシャワーの中を歩きながら、夏帆は思った。
ステージの拍手とは違う、あたたかくて、優しい音だと。
披露宴。
友人やスタッフ、家族が集まり、
懐かしい写真がスクリーンに映し出される。
中学生のころ、音楽室で笑っている写真。
初めてのライブの写真。
そして今日の写真。
会場が、やさしい空気に包まれる。
最後の挨拶で、夏帆はマイクを持った。
「私は、歌が好きで、ファンの皆さんや今ここにいる皆さん、家族のおかげでここまで来れました。一人では見ることの出来ない景色だったと思います」
少し声が震える。
「どんな時でも一番近くで支えてくれた人が、今日、隣にいます」
春人の方を見る。
「これからも、歌い続けます。
そして、帰る場所を大切にして生きていきたいです」
続いて、春人も最後の挨拶を行う。
「夏帆とここまで来るのに随分と遠回りをしてしまいました。一度、手を離してしまい、またこうして巡り合って一緒になれた事とても幸せに感じています。これまで夏帆を支えてくださった全ての方達に感謝を申し上げます」
二人で深く礼をすると、大きな拍手が起こった。
夜。
式が終わり、二人きりになった控室。
夏帆はドレスのまま椅子に座り、ふっと息を吐いた。
「……終わったね」
「終わったな」
少しの沈黙。
それから、春人が言う。
「でもさ」
「うん?」
「ここからが、本当のスタートだろ」
夏帆は笑った。
「うん。そうだね」
「これからもよろしくね。はる」
「こちらこそだよ。夏帆」
窓の外には、夜の街の光。
夢を追い続けた少女と、
その隣で支え続けた少年。
二人の物語は、終わりじゃなく
これからも、続いていく。




