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君がくれた声  作者: 中村雅
season1
8/12

一生の約束

記者会見から半年。


世間のざわめきは、少しずつ落ち着いていき、むしろ夏帆の人気が高まる一方だった。

夏帆は歌い続け、春人は変わらず隣にいた。


会えない日もある。

すれ違う日もある。


でも今は、どんな日も「戻る場所」があると分かっていた。

その日、夏帆は久しぶりのオフだった。


「ちょっと行きたいところがある」

 

春人がそう言って、車を走らせる。

着いたのは

中学生のころ、よく通ったあの川沿いの公園だった。


夕焼けが、ゆっくり空を染めていく。

あの再会の日と、同じ色。


「懐かしいね」


夏帆がベンチに座る。


「ここでさ、いろいろ始まったよな」


春人が隣に立つ。

 

夕焼けに染まる放課後の音楽室。

始まりのオーディション。

突然の別れ。

運命の再会。


全部が、この夕焼けみたいに重なって思い出される。


「夏帆」


少し真剣な声。


「ん?」


振り向くと、夏帆が深呼吸をしていた。


「俺さ、ずっと考えてた」


風が、静かに吹く。


「夢を追う夏帆を見てきて、一回離れて、それでもやっぱり隣にいたくて」


春人はポケットに手を入れる。

心臓の音が、やけに大きく聞こえる。



「これから先も、たぶん忙しいだろ?」

「うん」

「会えない日もある」

「うん」

「それでも」


春人は、小さな箱を取り出した。

時間が、止まった。



「俺と、家族になりませんか??」


まっすぐな目。

震えていない声。

 

夏帆の視界が、にじむ。


「……本気?」

「こんな顔で冗談言うかよ」


箱の中には、シンプルなリング。

派手じゃないけれど、温かい光を放っていた。



「俺さ」


春人が続ける。


「夏帆のファンで、一番の理解者で、できれば……一生夏帆の隣にいたい」


涙が、ぽろっと落ちる。


「夏帆がどこまで行っても、俺が帰ってくる場所でいたい」


夏帆は、泣きながら笑った。


「……ずるい」

「なにが」

「そんなの、断れるわけないじゃん」


一歩、近づく。


「私、何万人の前でも歌えるけど、はるの前だと今でも緊張するんだよ?」


春人が少し笑う。


「知ってる」

「私、わがままだし、すぐ拗ねるし、ヤキモチも妬くし、忙しいときとか前みたいにいっぱい迷惑かけるけどいいの……?」


春人が夏帆の手を握る。


「夏帆がいいんだよ。夏帆が好きな気持ちはずっと変わってない」


夏帆は、大きく息を吸って、泣きながらプロポーズを受けた。


「お願いします」


春人の目が、少し潤む。

ゆっくりと、指にリングがはめられる。


ぴったりだった。


夕焼けが、夜に変わっていく。


あの日、夢を語った公園で、

二人は新しい約束をした。


歌手としての未来も、

夫婦としての未来も、


どちらも選ぶ。


夏帆は、そっと春人に寄り添う。


「ねえ」

「ん?」

「一番近い席、ずっと空けとくね」


春人は笑って答える。


「最前列、予約済みだからな」

「大好きだよ……はる」

「俺もだよ……夏帆」


二人は見つめ合ってキスをした。


 

遠くで、街の明かりが灯る。

夢の途中で始まった恋は、ついに、一生の約束になった。

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