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君がくれた声  作者: 中村雅
season1
6/12

もう一度、二人が恋を始める日

あの再会のあと

二人は、連絡先を交換し直した。


「また、どこかで」

そう言って別れたはずなのに、

その夜、春人からメッセージが届いた。


『今日は、会えてよかった』


たったそれだけの一文。

でも、夏帆はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。


それから、少しずつやり取りが増えた。

毎日じゃない。

長文でもない。


『今、リハ終わり』

『今日、寒いな』

 

そんな何気ない言葉たち。

でもその一つ一つが、昔みたいに心を温めた。



ある日のツアー最終日。

大きな会場でのライブが終わり、アンコールも終わった後に、春人から連絡が入っていた。


『ライブお疲れ様。どこかで会えたりしないかな?』

 

その一文に、夏帆は驚いたが嬉しくなってすぐにスタッフに話をつける。

 

スタッフやマネージャーには反対されたが、夏帆の説得でライブに来ているファンが全員帰った後に数分ならという条件で許可を出してくれた。



そして、

楽屋のドアをノックする音がした。

 

「……入っていい?」


その声に、夏帆の心臓が跳ねる。

春人だった。


「来てくれてたんだ」

「最終日くらい、な」


少し照れた笑顔。


控室のソファに並んで座る。

昔より距離があるが、近づきたい気持ちは隠せなかった。


「今日の最後の曲……」


春人が言いかける。


「うん?」

「昔より、もっと強くなってた」


夏帆は小さく笑った。

 

「強くならないと、やっていけないから」

「でもさ」


春人は夏帆を見ながら話す。


「無理してないか?」


その一言に、心が揺れる。


強くなったつもりだった。

でも本当は、誰かにそう言ってほしかった。



「……正直、たまに怖い」


夏帆は、ゆっくり言葉を選ぶ。


「みんなに期待されて、応えなきゃって思って……前みたいに弱音吐ける相手、いないし」


春人は、申し訳なさそうに少しだけ目を伏せる。


「俺が離れたからだな」

「違うよ」


夏帆は即座に否定する。


「はるがいなかったから、ここまで来られた部分もある。でも……」


夏帆は深呼吸をして、覚悟を決める。


「今は、隣にいてほしいって思ってる」

 

夏帆の言葉はとても強かった。

静かな部屋に、その言葉が落ちる。


春人は、しばらく黙っていた。


「……また、俺でいいのか?」

「うん」

「前みたいに、会えない日もあるぞ」

「分かってる」

「喧嘩もするかもしれない」


夏帆は少し笑う。


「それでもいい」


そして、まっすぐに見つめた。

 

「今度は、逃げない。

夢も、恋も、どっちも大事にする」


夏帆にもう迷いはなかった。


春人は、ゆっくり息を吐いた。

それから、少し照れながら言う。


「じゃあさ」

「うん?」

「もう一回、最初からやり直そうか」


心臓が、どくんと鳴る。


「……最初から?」

「そう...もう一回夏帆のファンから始めるわ」


夏帆は笑いながら、涙をこぼした。


「じゃあ私は...」


一歩、距離を縮める。


「一番近い席、用意する」


春人がそっと夏帆の手を握り、見つめる。


「好きだよ」


静かだけど、はっきりした声。

迷いのない言葉。


夏帆も、同じ強さで答える。


「私も」


二人は涙を流し、キスをした。


スポットライトのない部屋で、もう一度二人が恋を始める。

恋が形となった日と同じように。

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