表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君がくれた声  作者: 中村雅
season1
3/12

優しい言葉

デビューから一年。二人は高校三年生へと進級した。


夏帆の名前は、少しずつ広がっていった。

音楽番組、雑誌のインタビュー、地方ライブ、配信イベント


スケジュール表は、空白を探すほうが難しいくらい埋まっていて、高校もほとんど通えず仕舞いだ。


最初は、春人も嬉しかった。


テレビに映る夏帆を見て、

「すげえな」って誇らしく思った。


けれど


「ごめん、今日も会えない」

「リハが長引いてる」

「今、地方なんだ」


その言葉が、増えていった。


久しぶりに会えた夜。

カフェの隅の席で向かい合う二人の間には、少しだけ距離があった。


「最近、俺のこと後回しじゃない?」


春人がぽつりと言った。


夏帆はすぐに顔を上げる。

 

「そんなことないよ!」

「でも、前みたいに話せてない」

「だって忙しいのは分かってるでしょ?私だって必死なんだよ」


言った瞬間、空気が冷えた。


春人は黙り込み、夏帆は自分の言葉を少し後悔した。


この日を境に喧嘩は増えていき、すれ違いも多くなった。


些細なことでぶつかる。

既読が遅い、電話に出られない、会う約束が流れる。


本当はどちらも悪くない。

でも、寂しさだけが積み重なっていった。



ある日。

ライブ後の楽屋に、春人が来ていた。


「話がある」


夏帆は嫌な予感がした。


「なに?」


春人は少し笑った。でも、その笑顔はどこか無理をしていた。


「最近さ、俺……夏帆の足引っ張ってる気がする」

「そんなことない!」

「あるよ。会えないって責めたり、寂しいって言ったり。夏帆は夢の途中なのに」


夏帆の胸がざわつく。


「それは、、忙しいのを言い訳にしてはるにきちんと向き合っていなかった私が悪いよ、、はるは悪くない。」


首を横に振り少し間を置いて、春人は言った。


「俺がそばにいることで、夏帆が迷うなら……いないほうがいい」


その言葉の意味を理解した瞬間、夏帆の視界が揺れた。


「……なに、それ」

「別れよう」


世界の音が消えた気がした。


「やだよ」


夏帆は即座に言った。


「私ははるがいるから頑張れてるの」

「でも、今はもう違う」


春人は首を振る。


「夏帆はもう、俺がいなくても飛べる」

「飛びたくないよ、ひとりでなんて!」


涙があふれる。


春人は一瞬だけ、夏帆に触れそうになって

でも、その手を下ろした。


「俺さ、夏帆がもっと遠くまで行くの、見たいんだ」


「……」


「夏帆は夏帆の夢の為に時間を使いなよ」


優しい言葉だった。

だからこそ、残酷だった。

けど、言葉をかけた春人が1番辛そうな顔をしていた。


「……嫌いになったわけじゃないよね?」


夏帆の震える声。

春人は少し笑う。


「むしろ逆」


その一言で、夏帆の涙が止まらなくなった。


「だから、離れる。夏帆ももう迷うなよ」

「夏帆の夢はずっと応援してるから、元気でね」


そう言って楽屋を出ていく春人の背中を、夏帆は追わなかった。


追ったら、きっと止めてしまう。

ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。



その夜のステージ。

スポットライトの中で、夏帆は歌った。

声が震えそうになる。


でも


“夏帆は夏帆の夢の為に時間を使いなよ“


その言葉が、胸に残っていた。

 

涙をこらえながら、歌いきる。

 

拍手が起こる。

 

大きな、大きな拍手。

 

けれどステージを降りた瞬間、

 

隣にいるはずの人はいなかった。



夢は、確かに近づいている。

でも、一番近くにいた人は、もう隣にいない。


夏帆は楽屋で一人、

そっとつぶやいた。


「……はる、見ててね」


その声は小さかったけれど、

確かに、前を向いていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ