二人の恋が形となった日
二人の恋が形となった日
レッスンを始めてから二年。
夏帆の芸名は春人とこっそり決めた「KaHo」に決定した。
Hが大文字なのは、春人の頭文字を表しているからだ。
これは夏帆と春人の二人だけの秘密である。
夏帆は高校二年生になっていた。
カバー曲での路上ライブやバックコーラスの仕事を重ね、ついに事務所から一つの話を告げられる。
「来月、KaHoさんの正式なデビューが決まりました!」
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
「……本当に、私が?」
「はい。デビューにあたりまして、オリジナル曲とカバー曲を交えた単独ライブを行います。」
夏帆はすぐに携帯を取り出して、メールを送り、学校へ向かった。
一番に伝えたい相手は、もちろん春人だった。
放課後のあの音楽室。
中学生のころと変わらない場所。
「デビュー、決まった」
春人は一瞬言葉を失って、それからゆっくり笑った。
「ついにだね!」
「怖いよ。嬉しいけど、怖い」
「なんで」
「遠くに行っちゃう気がして」
春人は少しだけ視線を落としてから、夏帆をまっすぐ見た。
「遠くに行くんじゃなくて、高く行くんだろ」
その言葉に、夏帆の胸がぎゅっと締めつけられた。
デビュー曲のタイトルは
『はじまりの空』
レコーディングの日。
ヘッドホン越しに流れる伴奏を聴きながら、夏帆は目を閉じた。
中学生のころ、勇気が出なかった自分。
音楽室で歌い続けた日々。
「夏帆の歌、好きだよ」と言ってくれた声。
全部を、歌に込めた。
最後のテイクが終わったとき、プロデューサーが小さく拍手した。
「これでいきましょう」
「ありがとうございました!」
こうして、短いようで長いレコーディングが終わった。
あとは、ライブで出し切るだけ。
そして、デビューライブ当日。
小さなホールだったけれど、客席は埋まっていた。
ステージ袖で震える手を握りしめる。
「大丈夫」
そう自分に言い聞かせた瞬間、客席の一番後ろに見覚えのある姿を見つけた。
春人だった。
目が合うと、彼は親指を立てて、口パクで何かを伝えていた。
「が・ん・ば・っ・て」
その仕草に、夏帆はふっと笑った。
スポットライトが当たる。
「初めまして。今日、デビューしました――KaHoです」
拍手が起こる。
イントロが流れた。
歌い出した瞬間、緊張は消えた。
あの日のオーディションと同じ。
彼に届く事を考えて、、、
あの日以上に歌える事が、ただただ幸せだった。
一曲一曲に感謝を込めて歌う事がこんなにも幸せなことだと実感した。
全ての曲が終わると、笑顔な人、泣いてくれている人、楽しんでくれている人、色んな人の表情が見れた。
夏帆は最後に泣きながら感謝を伝えた。
「今日は本当にありがとうございました!」
ライブ後、楽屋に戻ると、春人が立っていた。
「……すごかった」
「どうだった?」
「もうさ、俺の知ってる音楽室の夏帆じゃなかった」
その言葉に、夏帆は少しだけ寂しそうに笑う。
でも春人は続けた。
「もっとすごくなってた。でも」
一歩近づく。
「根っこは変わってない。俺の好きな歌のままだった」
夏帆の目に涙がにじむ。
「はる?」
「ん?」
「私ね、どんなに有名になっても……一番最初のファンは、はるだと思ってるから」
少しの沈黙。
春人は照れながら言った。
「じゃあさ」
春人が顔を上げる。
「有名になっても、俺の彼女でいてくれる?」
一瞬、時間が止まったようだった。
それから夏帆は、涙をこぼしながら笑った。
「……うん」
デビューの日。
それは、夢のはじまりであり、
二人の恋が、はっきりと形になった日でもあった。




