episode 1 遊び人で有名なイケメンに出会った日。
私立緑品高等学校にはイケメンがいた。
その顔は少女漫画にいるような人だ。
そう顔だけは…。
波川 倫。高校2年生は自他ともに認める“生粋の遊び人”だった。
彼の遊び人っぷりといえば、小学校の頃からその名を東西南北に轟かせる“遊び人の名手”である。
なぜこうも遊び人、遊び人言っているのかというと…今現在、その彼が目の前で私にナンパをしているからだ。
「ねぇ、ちょっとくらい喋ってよ?なんでそんな頑なに俯いてるの?」
身長は175センチちょっとくらいで、片耳ピアス3つ×両耳、襟足部分から覗く明らかに地形はかけ離れている色。
そして、確実に何回も校則違反で生徒指導に目をつけられているであろう、上半身私服。
まぁ、ついでに顔がいい。
「可愛いから俺、好きだなぁ」
コイツと少しでも言葉を交わしたくない。
という気持ちが今の状況を作っていた。
かれこれ30分は粘られているのでなかなかしんどい。
誰か来てくれ、とやたら人気のない旧校舎で願う。
すると___
「倫?またナンパ?」
低く綺麗な声が廊下に響いて、私は安堵した。
その人がこの遊び人のブレーキ役として有名だったからだ。
「真琴だ〜。そだよ、ナンパ〜」
認めんな!
内心叫ぶ私から倫を剥がす真琴は精悍な顔立ちで、知性的だ。
「すまない。倫はこの通り悪びれる様子もないけど許してくれ」
反省しようとすらしない倫に毎度ながら真琴は呆れる。
「…はい」
許したくないけど、この男はいつもこの調子と聞く。
「ごめんな。…って君…1年?マジでごめんな。名前は?」
「梓原有希です」
「梓原さん、もしまたなんかあったら全力で逃げなね」
「ありがとうございます…」
もう二度と関わり合いになりたくない。
真琴が倫を連れて行く様子を見て有希はため息をついた。
真琴さんが不憫でならない…。
とてもいい人なのに…。
有希はそんな感情を残し、旧校舎をあとにした。
もう二度と関わるはずもない…そう思っていたら、大体出会ってしまうのが相場である。
まさかの___バイト先が同じになるなんて…。
有希は空いた皿を片付けながら満面の笑みで接客にあたっている倫を見た。
ここは有希が今日から新しく働くことになったバイト先、カフェ『more more』だ。
小洒落たカフェで若者たちがこぞって立ち寄るここらでは人気店であるカフェなので、前から働きたいと思っていた所だった。
はずなのに…倫という男がいたことで、有希は衝撃を直で受けている。
本来、ほんわりとした談笑が楽しめるカフェなのだが、今のここはまるでホストクラブのように倫に向けて黄色い声があがっている。
最悪すぎる…、バイトに応募する前に下調べしておけば良かった…。
しかも、初日からシフトが被っている。
有希があからさまに嫌な顔をしてテーブルを拭いていると、肩を優しく叩かれた。
「有希ちゃん、どうしたの?」
同じバイト仲間で先輩である秋間 海人が柔和な笑みを浮かべて立っていた。
「あ、すいません。大丈夫です」
「何かあったら言ってね。それと、眉間に皺寄せてちゃメだよ」
この人はふんわりした雰囲気をいつも保ったままいるので、とっても落ち着く。
「ごめんなさい」
「それじゃあ、有希ちゃん俺上がる時間だからおつかれ〜」
「お疲れ様です」
海人が帰って行く背中を見送ると、有希は台拭きを持ってキッチンに戻った。
「梓原さん、これ6番テーブルに運んでくれない?」
「はい」
良い香りがする、ナポリタンを手に6番テーブルへと運ぶ。
「お待たせしました〜ナポリタンです」
その隣の5番テーブルから天使のような顔の仮面を被った堕天使がこちらを見て笑っていることに有希は気づかないフリを決め込んだのだった。
不定期投稿です。
ご了承ください。




