表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波乗りおじさんの異世界冒険(こ、これは?電子レンジ!?)  作者: 海岸線の夕日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/28

3話 平凡を望む

レオンの授与式から2年がたった。


父の書斎から聞こえてきた会話が、その違和感を確信に変える出来事の始まりだった。


「…『堅守の騎士』は確かに名誉なスキルです。ですが、伯爵様、近年の辺境の魔物の活動を考えると、単なる防御だけでは…」


「何を言う。我が家の伝統と栄光が、レオンのスキルに込められている。それで十分だ」


「ですが、次男アルド様の授与式も来年です。もし、レオン様と相補的な、あるいは…より強力なスキルが現れた場合――」


「アルドか」


父の声が少し間を置いた。


「あの子は…レオンとは少し違うようだ。成長も遅めで、物静かだ。妻も心配している。特別なスキルは期待していない。むしろ、そうであってほしいとさえ思う。この家に、一人の『普通』がいても悪くはないからな」


僕は廊下の影に隠れ、息を殺して聞いていた。


(そうだ…その通りだ。僕は普通でいい)


けれど、家臣の次の言葉が、僕の背筋に冷たいものを走らせた。


「しかし、もし『平凡』を超える何か――例えば、記録に残るような『役立たず』のスキル、あるいは禁忌とされるような稀代の『負のスキル』を授かった場合、それは家名の汚点となり、レオン様の将来にも影を落とすかもしれません。場合によっては、アルド様自身が…厄介者として扱われる恐れも…」


長い沈黙が流れた。


「…その時は、その時だ」


父の声は、どこか遠く、事務的だった。


「ウェイブリッジ家のためには、必要な措置もある」


足音が近づき、僕は慌ててその場を離れた。小さな足で、できるだけ静かに廊下を走り抜ける。


胸が痛い。前世で味わった、あの無力感に似た感覚がよみがえる。大きな組織や運命の前では、個人の意思など軽んじられる。それは、どの世界でも変わらないのか。


ただ一つ、違うことがある。


前世の僕には、逃げ場がなかった。しかし、この世界には、まだ見ぬ広大な土地があり、僕の知らない魔法や技術があるかもしれない。


(平凡を選ぶ…それも一つの戦いなんだ)


(だが、そのためには、ただ目立たないふりをするだけじゃ足りない。この世界のルールを、もっと深く知らなければ。そして、いざという時のための「保険」を、そっと準備しておかなければ)


僕は、自分の部屋に戻り、窓辺に立った。二つの月の光が、僕の小さな手のひらを照らしている。


遠くで、兄レオンがまだ剣の型を練習する音が聞こえてくる。規則正しい、力強い音。


僕はそっと手を握りしめた。


(兄さんは兄さんの道を進む。僕は…僕の道を探す。それがたとえ、誰にも気づかれない、地図に載っていないような細い道だとしても)


(来年の授与式まで、あと一年。)


(その時、僕はどんな「平凡」を手に入れるだろうか。それとも…「平凡の先」にある何かに、足を踏み入れることになるのだろうか。)


僕は月明かりに照らされた庭を見つめながら、新たな決意を胸に刻んだ。この世界で生き延びるために、学び、観察し、準備することを。たとえ、それが「平凡」を装うためであっても。


夜、月明かりが石の床に落ちるのを見つめながら、僕は誓った。


どんなスキルが与えられようとも、僕は僕の人生を生きる。英雄にも、救世主にもならない。ただ静かに、平和に、この第二の人生を全うしたい。


窓の外では、二つの月が異世界の空に浮かんでいる。一つは青白く、もう一つは淡い金色を帯びている。この世界は美しい。だからこそ、もっと長く、安全にこの美しさを眺めていたい。


眠りに落ちる直前、ふと思った。


もしも「平凡」を選ぶこと自体が、この世界では最も非凡な選択だったら?


そしてその考えが、少しだけ、怖かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ