19話 スライムと世界の終わり
スライムの夢を見ていた。多分、心が癒しを求めているのだろう。
スライム討伐失敗から数日間だけ一緒に過ごした、あの無垢なスライムのことを思い出す。家の片隅に小さな囲いを作り、中でのんびり転がる姿を見ているだけで、不思議と心が落ち着いた。
「お前だけが、心の拠り所だよ」
スライムは知能が低く、懐くことはない。でも、その単純な存在が、最高の「癒し」だった。気が向くと家の中に出してやると、すぐにドアの前へ転がっていく。逃げようとしているのか、ただ移動しているだけなのか——とても愛おしかった。
一度だけ散歩に連れて行った時も、逃がしてくれると勘違いしたのか、いつもより早く転がろうとした。遅すぎてすぐに追いつけたけど。可愛いやつめ。
実家に戻る時、逃がそうかとも思った。でも、この世界ではスライムは害虫扱い。きっと誰かに討伐されてしまう。情が移っていたから、そんな選択はできなかった。代わりに、イケメン冒険者のトーマスに世話を頼んだ。快く引き受けてくれた彼は、心までイケメンだった。スライムは家で放し飼いで、定期的に水と餌をトーマスが与えてくれる。
「会いたいな」
あのゴロゴロ転がる、無垢なスライムをもう一度見たい。
〜〜〜
ここ一週間、私は「リリア」としての女性の作法を徹底的に叩き込まれた。
「歩き方、話し方、仕草、すべてが違いますわよ、リリア様」
エリザベスさんの指導は厳しかった。でも、明確な目標があったからなんとか耐えられた。
「明日から、第一王子様のメイドの助手として一週間過ごしてください」
エリザベスさんが淡々と説明を続ける。
「第一王子様はまだ19歳で、特殊な背景から親しい者にしか心を開かれません。ですから、男だとバレる可能性は低いと思われます」
部屋の空気が張り詰める。窓の外では、夕焼けが広がっている。
「訓練は以上になります。お疲れ様でした。リリア様、最後に質問はありますか?」
もちろんあるだろ。
「もし……男だとバレたらどうなりますか?」
エリザベスさんの表情が一瞬、鋭くなる。
「その時は、現在お使いのカップと胸パッドは、脱着できない仕様のものと変更になり、24時間、常時着用していただきます」
頭が真っ白になった。
はい、死んだ。
意識が遠のいていく。
視界が揺らぐ。
その時、どこからか声が聞こえてきた——
「お前のお股はもう死んでいる!」
これ以上の地獄があるというのか?カップ免除の計画どころではない!
真っ赤に染まった美しい異世界の空に、夕日が少しずつ沈んでゆくのが見える。胸のパッドがやけに重く感じ、息が浅くなる。バレたら、世界は終わる。運命の分かれ道だ。
絶対にバレてはいけない戦いが、そこにはある。




