第3話:勇者パーティーの荷物持ち(奴隷)と、地獄の介護ループ・前編
**「モンスター討伐 → 介護(回復)で延命 → 罵倒され暴力を受ける → それでもへりくだる」**という地獄のループを使って、誠一郎がしぶとく生き残る「ブラック企業的異世界勇者パーティー編」をシリーズ化して描いていきます。
誠一郎の介護士としての「理不尽な客(患者)への対応スキル」が、最悪の形で火を吹きます
第3話:勇者パーティーの荷物持ち(奴隷)と、地獄の介護ループ・前編
【現在の状況】
* 場所:Aランクダンジョン「嘆きの坑道」
* 職業:荷物持ち(奴隷契約・レベル1)
* 現在の残り寿命:3分(スタート時)
* パーティーメンバー
* 勇者アレックス(16歳):王国の英雄。性格は最悪。自分以外は道具だと思っている。
* 聖女マリア(17歳):回復役だが、汚いおっさん(誠一郎)には触れたくないので回復魔法をかけない。
* 戦士ゴードン(20歳):筋肉バカ。誠一郎をサンドバッグにするのが趣味。
1. 覚醒と罵倒
「おい、起きろゴミ虫!」
ドガッ!
わき腹に鋭い痛みが走り、誠一郎は泥水の中で目を覚ました。
見上げると、金髪碧眼の少年――勇者アレックスが、汚いものを見る目でこちらを見下ろしている。
「あ、あうっ……!」
(痛ったぁ……! なんやいきなり! ここは……洞窟か?)
誠一郎は瞬時に状況を理解した。薄汚い麻袋のような服。背中には自分の体重の倍はあろうかという巨大なリュック。
そして視界の隅に見える**【残り寿命:2分50秒】**の赤い文字。
「テメェいつまで寝てんだよ。ポーション出せ。喉乾いた」
「……あ?」
「『あ?』じゃねえよ! 殺すぞジジイ!」
勇者が剣の柄で誠一郎の頭を小突く。
誠一郎の血管がブチ切れそうになった。
(なんやこのガキ! 親に向かってその口の聞き方は! ワシは58歳やぞ!)
だが、寿命ゲージが**【2分40秒】**と減っていく。
怒っている場合ではない。媚びなければ死ぬ!
誠一郎の介護士スイッチが入った。クレーマー老人の相手をしていた時の「無の心」だ。
誠一郎は地面に額を擦り付けた。
「も、申し訳ございません勇者様ぁぁ!! 私のようなゴミクズが寝てしまって! すぐにポーションをお出しします!!」
ピコン♪(卑屈な謝罪:+20秒)
誠一郎は震える手でリュックからポーションを取り出し、蓋を開けて差し出した。
「ささっ、どうぞ! 飲みやすいように蓋も開けさせていただきました! お疲れでしょう、お肩もお揉みしましょうか!?」
ピコン♪(気遣い:+20秒)
勇者はポーションをひったくると、一気に飲み干し、空き瓶を誠一郎の顔面に投げつけた。
ガシャーン!
「ギャアッ!」
額が割れ、血が流れる。
「気安く触れようとすんな汚らわしい。行くぞ」
勇者はスタスタと歩き出す。聖女と戦士も、血を流す誠一郎を鼻で笑って通り過ぎる。
誠一郎は血を拭いながら、心の中で絶叫した。
(覚えとけよクソガキども……! 今に見てろ、全員の寝首かいたるからな!)
【残り寿命:3分10秒】
2. 接敵、そして「介護ループ」の開始
ダンジョンの奥に進むと、巨大なオーガ(人食い鬼)の群れが現れた。
「チッ、雑魚が。ゴードン、マリア、やるぞ!」
「おうよ!」
「ええ、勇者様♡」
戦闘が始まった。
誠一郎は岩陰に隠れて震えていた。
(死ぬ死ぬ死ぬ! あんなデカい棍棒で殴られたら即死や!)
しかし、勇者たちは強かった。華麗な剣技と魔法でオーガを圧倒していく。
だが、最後の一匹が死に物狂いで暴れ、勇者アレックスの腕を爪で切り裂いた。
「ぐあっ! クソが!」
勇者はオーガの首を跳ね飛ばしたが、腕から血が滴っている。
「痛ぇ……! おい、マリア! 回復しろ!」
「ごめんなさい勇者様、魔力切れちゃった♡」
「使えねえな! おいゴミ虫(誠一郎)! 薬草持ってこい!」
誠一郎の出番だ。
ここでただ渡すだけでは「人助け」判定が弱い。
誠一郎はダッシュで勇者の元へ駆け寄った。
「ひいぃっ! 大変だ勇者様! 玉のようなお肌に傷が!」
誠一郎はリュックから上薬草を取り出し、自分の手で丁寧にすり潰した。
「私が塗らせていただきます! 痛くないですよ〜、痛いの痛いの飛んでいけ〜!」
まるで幼児やボケた老人をあやすような口調。
誠一郎は、血と泥にまみれた勇者の腕に、優しく、ネットリと薬草を塗り込んだ。
ピコーン!!(負傷者の手当て・極めて献身的:+2分)
寿命ゲージが一気に回復する。
だが、勇者にとっては屈辱だった。汚いおっさんに「痛いの飛んでいけ」などと言われ、肌を撫で回されたのだ。
「……てめぇ」
「はい? もう大丈夫ですよ勇者さ――」
ドゴォォォォン!!
勇者の裏拳が、誠一郎の頬骨を砕いた。
「キッショいことしてんじゃねえよホモジジイ!! 薬草渡せばいいんだよ! 触るな!」
誠一郎は دم鞠のように吹き飛び、壁に激突した。
「あぐっ……ぶべっ……」
口の中が切れて血の味がする。歯が一本抜けた気がする。
(痛い……殺される……魔物に殺されるより先に、こいつに殺される……)
だが、誠一郎は見た。
寿命ゲージが**【5分】**を超えているのを。
(殴られれば殴られるほど……俺がへりくだって治療すればするほど、寿命が伸びる……!)
誠一郎は血まみれの口で、ニチャアと笑った。
「あ、あ、ありがとうございますぅぅ! 私のような者に触れられて不快でしたよねぇ! 躾をしていただいて光栄ですぅぅ!」
ピコン♪(感謝の言葉:+10秒)
「チッ、気持ち悪ぃ奴だ。さっさと荷物持ってついて来い!」
3. 終わらない地獄の行軍
それから数時間。ダンジョンの攻略は続いた。
誠一郎にとっての「地獄のループ」が確立された。
* 魔物が現れる。
* 勇者が少しでもカスリ傷を負うと、誠一郎が飛んでいく。
* 「おお、勇者様! 私が盾になります!」「お怪我はありませんか! 今お拭きします!」(+寿命延長)
* 勇者に蹴り飛ばされる、殴られる、罵倒される。(HP減少)
* 「ありがとうございます! ありがとうございます!」と地面を舐める。(+寿命延長)
誠一郎の顔はボコボコに腫れ上がり、体中あざだらけだった。
しかし、寿命ストックは驚異の**【45分】**まで伸びていた。
「ゼェ……ゼェ……」
(ええんや……これでええんや……。介護の夜勤で、暴れる認知症の爺さんに杖で殴られた時と同じや。あの時は手当が出んかったけど、今は『命』という手当が出とる……!)
誠一郎の精神構造は、歪んだ方向に進化していた。
プライドを捨て、尊厳を捨て、ただ「生きて、いつか風俗に行く」という執念だけで動く肉塊となっていた。
その時。
一行はダンジョンの最深部に到達した。
そこには、巨大な扉があった。
「ここがボス部屋か」
勇者がニヤリと笑う。
「おいゴミ虫。お前、先に中に入って罠がないか見てこい」
「えっ」
誠一郎は耳を疑った。
それはつまり「死んでこい」ということだ。
「聞こえねえのか? 行けつってんだよ」
戦士ゴードンが、誠一郎の背中を乱暴に蹴り飛ばした。
ガギィン……!
勢いで扉が開き、誠一郎はボス部屋の中へ転がり込んだ。
部屋の中央にいたのは、全身が黒い炎に包まれた、巨大な**「デュラハン(首なし騎士)」**だった。
デュラハンは、小脇に抱えた自分の首の目で、転がってきた誠一郎をじっと見た。
「ひっ……」
後ろで扉が閉まる音。
外から勇者の笑い声が聞こえる。
「ギャハハ! 囮が暴れてる間に俺たちはバフかけて準備すっぞ!」
閉じ込められた。
目の前には、Sランクモンスター。
後ろは閉ざされた扉。
残り寿命【43分】。
誠一郎は、デュラハンの足元で震えながら、とっさに叫んだ。
「い、いらっしゃいませぇぇぇぇ!!」
ピコン♪(元気な挨拶:+10秒)
デュラハンが、首を傾げた(手に持っている頭を)。
「お、お客様! その鎧、少し汚れておりますね! 私が磨かせていただきます! 無料です! サービスです!」
誠一郎はポケットから汚い雑巾を取り出し、デュラハンの鉄の足にしがみついた。
これは戦闘ではない。介護だ。清拭だ。
相手が勇者だろうが魔物だろうが、媚びて、尽くして、時間を稼ぐしかない!
「ここ! ここの錆が気になりますねぇ! 今すぐ綺麗にしますよぉ!」
ゴシゴシゴシゴシ!
デュラハンは剣を振り上げた。
その巨大な剣が、誠一郎の脳天に振り下ろされる――!
(あ、終わった)
その瞬間、誠一郎のポケットに入っていた**「冥銭2万円」**が、カッと眩い光を放った。
【次回予告】
絶体絶命の誠一郎!
しかし、魔物にとって「冥銭」とは、人間界の金とは違う意味を持っていた!?
「え? このお札……魔界の風俗の割引券になるの?」
デュラハンもまさかの常連客!?
次回、第4話。
『地獄の沙汰も金次第! デュラハンと意気投合して勇者をハメる!』
「勇者君、君ねえ、店でのマナーがなってないよ?」
誠一郎の逆襲が始まる……かもしれない!




