表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4話:「影の決意」

冷たい雨が王宮の石畳を叩く朝。

アミナ・ヴェルンは傘もささずに、庭園の小径を歩いていた。雨に濡れた短い髪とコートは、まるでこの孤独な任務を象徴しているかのようだった。


昨日の暴走魔法事件で救えた民はいたが、同時に助けられなかった者もいた。

「……私一人では、まだ足りない」


少女は拳を握りしめ、深く息を吐く。王宮内でも、表舞台の勇者の陰に隠れている限り、誰もその努力を直接見ることはない。しかし、掲示板に書き込まれる民衆の声は、確かにアミナの行動を認めていた。


『影の勇者さん、ありがとうございます』

『あなたのおかげで助かりました』


その一行一行が、少女の胸を温める。けれど、同時に思う——

「それでも……私の存在は偽り」


そんな思いを抱えながら、アミナは今日も街へ向かった。王宮の裏通り、狭い商店街。ここには、表舞台の勇者では救えない人々の生活があった。

市場の角で、泣き叫ぶ幼子と困惑する母親。盗まれた食料を取り戻せず、途方に暮れている。


「……大丈夫、私が」


少女は短剣を片手に、盗賊の足音を追う。影として、誰にも気づかれず、素早く、正確に。数分後、盗賊たちは捕らえられ、盗まれた品は母子の手元に戻った。


母親の目に涙が光る。

「本当に……ありがとう、勇者さま……」


アミナは苦笑する。

「影です、私は……でも、よかった」


その夜、王宮に戻ると、掲示板に新しい書き込みがあった。

『影の勇者さん、あなたがいてくれるから安心です』


少女は小さく笑みを浮かべる。だが、その背後で冷たい声が響いた。

「君は、本当に影で満足か?」


振り返ると、老魔導士が黒いマントを翻しながら立っていた。

「表の勇者が倒れたとき、君は本物の勇者として立てる覚悟はあるか?」


アミナの胸が熱くなる。これは、王宮からの試練だった——影としての日常ではなく、暁として世界を変える覚悟を問う試練。


少女は雨に濡れた顔を上げ、静かに短剣を握る。

「……はい。影でも偽者でも、誰かを守れるなら、私は勇者になる」


老魔導士は頷き、闇に消える。

その時、遠くの街で小さな火の手が上がる——新たな事件の兆しだ。


アミナは息を整え、静かに言った。

「……誰も泣かせない。私が影であっても、暁であっても」


少女の影は、今日も暁への決意とともに、静かに伸びていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ