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野イチゴタルト

え~~スギ花粉です。こんなすぐに投降はできませんので、よろしくお願いしますね。末長い目で見守ってくれると幸いです。では、どうぞ~~

「姫様、頭を覆わないと。風邪を引いてしまいます」


馬を引きながらサー・ロドリゲスが彼女に言った。


「ただの水だ。ロドリゲス。そう騒ぐ程のものでもない」


デナ―リスは答えた。彼女のブロンドの髪は雨に濡れて重く垂れさがり顔に張り付いていた。そして今の自分がどんなに惨めたらしく、粗野に見えるか、想像がついた。しかし、気にならなかった。


デナ―リスは自分の幼少時代を思い出していた。祖国の雨は柔らかくて暖かかった。自分はびしょ濡れになりながら、城の子供たちといつまでもチャンバラごっこをしていたものだ、


だが、ロドリゲスは年相応の深い深いため息を吐いた。


「びしょ濡れですよ……骨まで濡れてしまった気がします」


彼らの周囲には木々が生い茂り、パタパタっと絶え間なく木の葉を打つ雨音に、ロドリゲス引く馬が泥から蹄を引き抜くときに出る吸い込むようなかすかな音が混じる。


「今夜は火が欲しいですな、姫様。それと熱い食事があれば、非常に助かります」


「そうだな………だが、こんな山奥では宿屋も民家も期待できない。我慢するしかないだろうな」


二人はそんな会話を繰り広げながら、一歩一歩森の奥へとはいって行った。どこかに一時的にでも雨をしのげるような洞穴でもないものかと探しながら。


「……………うん?」


そんなとき、デナ―リスはふとその場で立ち止まった。それを不審に思ったロドリゲスもその歩みを止める。


「姫様?どうしたのですか?」


「………ロドリゲス。あれを見ろ」


すっとデナ―リスが指さす方向を見るロドリゲス。するとその先には、雨雲のためにうす暗くなった世界に小さな……本当に小さな明かりが灯っていた。


「あれは………民家…でしょうか?」


「こんな山奥にか?」


デナ―リスは少し不審そうに眉を細める。だが、ロドリゲスはそんなデナ―リスに言った。


「木こりなどがいるのやもしれませんよ。何はともあれ、この雨の中での野宿は避けられそうですな」





=================   ===================




しばらく歩き続け………二人はその明かりが灯っている建物へとたどり着いた。しかし、そこはロドリゲスが言ったような木こりが暮らしているような小屋ではなかった。


「「………」」


二人は不審そうにその建物を見つめていた。そこは‘野イチゴタルト亭’っと大きな看板が掲げられている旅籠だったのだ。


あまりに不自然だった。街道でもない、こんな魔物しかいないような山奥に旅籠など建てても訪れる客などいるとも思えない。


さらに違和感を覚えるのはその造りだった………かなり立派なのだ。すべて木で造られているようだが、所々に職人のこだわりのようなものが見受けられる。怪しさ満天だった。


「……姫様、ここはやめておいた方がいいのではないでしょうか?」


「ロドリゲス……お前の気持ちも分からないでもない。確かに、こんな山奥にこんな立派な旅籠があるのは不自然だ。だが、ここを逃せば私たちは野宿するはめになる。何…大丈夫だ。たった一晩の宿を借りるだけだからな」


デナ―リスはロドリゲスの不安も余所に、その大きな扉をゆっくりと押してみた。ギギギギギっと木が軋む音を立てながら、扉が内側へと開いていく。


カランカランカラン……っと扉に備え付けられていた鐘がきれいな音を旅籠中に響かせる。来客を知らせるものなのだろう。


デナ―リスとロドリゲスは入口をくぐり、旅籠の中へと入って行った。


そこは自分が想像していたよりもかなり広い空間となっていた。床は白い大理石がきれいに敷き詰められており、入口とカウンターらしきものの間には立派な赤い絨毯が敷いてある。


左右には様々なインテリアが飾ってあった。変な形をした銅像やら、ベアウルフのはく製やら、甲冑やら、そして驚くべき事にオスタリア大陸の東方に位置する島国でしか見られない屏風まであった。自分ですら書物でしか見た事がないものだ。まったく統一感がなかった。


そして壁には様々な武器が飾られている。剣…槍…盾…弓……などなど遠くから見ただけだが、かなりの業物でる事がデナ―リスにははっきりと分かった。


「誰か!!…誰かおらぬか!!」


ロドリゲスが大声を上げていた。赤い絨毯を進んでいくとカウンターのようなものがあったのだが、そこにいるはずの宿屋の主人が見当たらなかったためだ。


デナ―リスは右側の壁にゆっくりと近づいていくと、そこに飾られている武器の数々を見渡した。本当に様々な種類の武器が飾られており、大陸ではかなり珍しい刀と呼ばれる剣まで何本か飾ってあった。


そんな中、ある業物がデナ―リスの目を引き付けた。それは一本の槍だった。柄は漆黒の黒を基調とし、鋭利な穂先の部分には赤い布が巻かれている。


ほう……っとデナ―リスは感嘆をもらしてしまった。その槍は本当に素晴らしいものだったのだ。他の武器もかなりの業物である事は確かだろう。しかし、それらもこの槍の前ではかなり見劣りしてしまう。


それには、見る者を圧倒する何かがあった。いったいどんな鍛冶師が造ったものだろうかっと思っていると石突の後ろに何かが彫られていた。


顔を寄せて注意深く見てみると………‘大陸一の鍛冶師・ドワーフ・アイゼンブルグ作’っと彫られているのがかろうじて読みとれた。


「…………ドワーフ?」


(ドワーフというのは…………あのドワーフだろうか?)


よく物語に出てくるあの髭がもじゃもじゃで、小人のような種族。彼らは鉱山を掘りあてる事や鉄を打つ事に優れているといわれている。そして、大抵の物語では偏屈な種族として語られる事が多い。


だが、ドワーフは架空の生き物だ。そんな種族はこのオスタリア大陸にも、東方の島国にも存在しない。


(誰かの悪戯なのだろう………もしかしたら、名を明かさないような鍛冶師なのかもしれない)


デナ―リスはそう結論づけた。腕のいい鍛冶師はかなり貴重だ。魔力を込める武器を造れるだけでも重宝されるというのに、これだけの武器を造れるといったらどこの国でも引っ張りだこのはずだ。


そして、デナ―リスはスッとその槍をもっとよく見るために壁から取り外そうと手を伸ばした。だが、その瞬間……ドドドドドドドドドド……っと何やら階段を駆け下りてくる音が聞こえてきた。そして、バタン!!っと奥の扉が突然開いたかと思うと、そこから一人の男が姿を現した。


すっと伸びた肢体は男性にしてはやや細く、その顔立ちもどこか中性的。紫がかった髪を綺麗に整えるわけではなく、ただ乱雑に切っただけという印象。身長は170前半から中頃……歳は16~17だろうか、かなり若く見える。


その青年は私達を見ると信じられないっというような顔をし、こちらをじっと見つめていた。


「……すまぬ。宿をとりたいのだが………部屋は空いているか?」


一向に喋りだす気配がないその青年の様子をデナ―リスが不審に思っていると、ロドリゲスが確認をとった。その言葉を聞いた瞬間その紫髪の青年の顔が、パァァァァっと喜びに満ち溢れた。そして大きな声でこう叫んだ。


「は、はい!!どうぞ、旅の疲れを癒していって下さい!!‘野イチゴタルト亭’へようこそ!!」


そしてその青年はニコっと、人懐こっこい笑顔を見せた。


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