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落第女子高生、幼稚園児はじめました(休載中)  作者: 062


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8話 クルミ色の世界、ユキ色の現実

園庭のベンチに腰掛け、サトミは 色とりどりの小さな世界 を眺めていた。ブランコを 自信を持って 漕ぐ子、砂場で チーム を組んで 大きな 城を作る子、ボールを奪い合って 地面 を駆け回る子。その 純粋な エネルギーが、 昨日の自分の日常とあまりにもかけ離れていて、遠い世界の出来事のように感じられた。


そして、何気なく年少クラスの子供たちの 集団 を見ているうちに、サトミは 微細ながらも、確かに存在する 階層 に気づいた。おむつをしている子と、していない子。おむつをしていない、つまりパンツを履いている子の方が、ほんの少しだけ 自信を持って 遊具を使っているように見えるのだ。

まるで、パンツの子の方が「お兄さん」「お姉さん」に近いと言わんばかりに。ブランコの順番を譲ってもらったり、砂場の いい 場所 を 先に 確保したり。幼いながらも、子供たちは何かを 感じ取って いるのかもしれない。


そんな 小さな世界の縮図 を観察していると、 明るい茶色の 髪を二つ結びにした、 小さな 女の子がちょこんと隣に座った。大きな瞳が、まっすぐにサトミを見つめている。


「お姉ちゃんは何でここにいるの?」


幼いゆえのストレートな質問に、サトミは少し戸惑った。


「私はサトミ。あなたは?」

「クルミ」


(キラキラネームってやつかな?)


「クルミちゃんか。私は病気だから幼稚園にいるんだよ」


『落第して』なんて言っても、この小さな子供には 理解 できないだろう。そう言う事にしておくのが、一番 簡単 だと思った。


「そうなんだ。だからお姉ちゃんはおむつなんだね」


クルミちゃんは、何の遠慮もなく、 純粋な 声で言った。その 子供らしい 正直さ に、サトミは一瞬言葉を失った。


「お姉ちゃんじゃなくて、サトミちゃんだよ。クルミちゃんと同じクラスで、同じおむつなんだし」


実は、幼稚園のおむつ交換の部屋には、誰がいつ交換したかが記録された 小さな ノートがある。サトミが初めてそのノートを見た時、クルミちゃんの苗字である「有光」という名前が、自分の名前「泉サトミ」の すぐ 前に書かれているのを見つけていたのだ。


「知ってたの?」

「うん」


サトミは 短い 返事をした。


「どうやったら、パンツになれる?」


クルミちゃんの 質問 は、 子供らしい ながらも切実だった。


「私も知りたいよ」


サトミは、 少し 肩をすくめて、 かすかな微笑み を浮かべながら言った。それは、自分自身に対する諦めと、 子供らしい 純粋な願いに対する共感が混ざった、 自嘲 を含んだ言葉だった。


「あはは、そうだね」


クルミちゃんは、屈託のない笑顔を浮かべた。


「私の妹は、もうパンツなのに」


クルミちゃんの言葉に、サトミは 思いがけなく 共感を覚えた。


「私も!」


サトミも、妹の存在を思い出し、思わず 純粋な 声で答えた。二人の間には、 不思議な 連帯感が生まれた。おむつという、少し 恥ずかしい 共通点が、二人の距離を 思いがけなく 縮めたのかもしれない。


やがて、保育士の先生たちが「お昼寝の時間だよ」と声をかけ始めた。子供たちは眠たそうな目をこすりながら、自分の布団へと移動し始める。サトミも、クルミちゃんに手を引かれるようにして、自分の布団へと向かった。

サトミの布団の隣には、クルミちゃんの小さな布団が敷かれている。二人並んで布団に入ると、 日差し の匂いが心地よかった。クルミちゃんはすぐに 静かな 寝息を立て始めた。サトミは、 無理やり 目を閉じようとしたけれど、しばらくは周囲の 小さな 音が気になっていた。それでも、疲労には抗えず、いつの間にか眠りに落ちていった。

一時間ほど経った頃だろうか。優しい声がサトミの耳に届いた。


「サトミちゃん、おやすみできたかな? もう起きる時間だよ」


竹中先生の声だ。ゆっくりと目を開けると、隣のクルミちゃんも先生に声をかけられている。


「クルミちゃんも、起きていいよ」


クルミちゃんは、眠そうな目をこすりながら、もぞもぞと体を起こした。

先生の視線が、何気なく二人のお尻のあたりに向かう。そして、 少し 表情を変えた。


「あれ? サトミちゃん、クルミちゃん、おむつの お知らせサインが青くなってるね」


二人は、先生の言葉に 少し 慌てて自分のお尻のあたりを見た。確かに、おむつについている小さなマークが、おしっこをしたことを示す青色に変わっている。

サトミは、またしてしまったという 自己嫌悪 と、 少し ばかりの恥ずかしさで顔が赤くなった。隣のクルミちゃんも、 少し 顔を歪めている。


「二人とも、おむつ替えようね。気持ち悪かったでしょう」


竹中先生は、優しい笑顔で二人を促した。サトミは、 少し 希望 を抱いた。クルミちゃんも一緒なら、 少し だけ恥ずかしさが和らぐかもしれない。

二人並んでおむつ交換のスペースへ向かうと、田辺先生が 温かい 笑顔で迎えてくれた。


「あらあら、二人ともお昼寝でいっぱい出ちゃったかな?」


サトミとクルミちゃんは、顔を見合わせ、 少し ばかり照れくさそうに微笑んだ。 少し 恥ずかしいけれど、二人一緒なら、 なぜか 心強く感じた。おむつを替えてもらい、少し すっきりとしたサトミに、田辺先生は 優しい 声で話しかけた。


「そういえばサトミちゃん、今日はお母さんが熱があるから、妹さんが迎えに来てくれるそうよ」


まるで、おむつ替えの 自然な 流れのように、何気ない口調だった。サトミは、 思いがけない 言葉に、少し 目を見開いた。妹のユキが、自分を迎えに来る?


そして、あっという間にお迎えの時間になった。年少組の教室には、親たちが次々とやってきて、自分の子供の名前を呼んでいる。サトミは、少し 不安な気持ちで ドア の方 を見つめていた。

やがて、ドアの向こうに、見慣れた 姿 が現れた。 明るい茶色の 長い 髪を一つに束ね、 きちんとした 制服に身を包んだ少女。妹のユキだった。身長は125cm。昨日いた年長組の園児に混じっても、特に違和感はないだろう。しかし、その見慣れない制服姿が、周囲のカラフルな服装の園児たちとは明らかに違うオーラを放っていた。それは、県下ナンバー1の偏差値を誇る明王義塾高校の制服だった。


「竹中先生、姉がお世話になっています」


ユキは、竹中先生に向かって、丁寧に頭を下げた。その 声 は、 サトミ の記憶よりも、少しだけ 低く なっていた。


「あら、ユキちゃん?すっかり大人になっちゃって!あれ?でもなんかおかしいような?だって、ユキちゃんが卒園したのは6年前よね?もう高校生なんだ……」


竹中先生は、目の前に立つユキの制服姿に、時の流れの速さを感じたような、少し 訝しげな表情を浮かべながら、首を傾げた。


「はは、先生にお世話になったのは 6年前ですからね。飛び級です。明日から高校3年生になります」


ユキは、 小さな 笑顔 を浮かべて、さらりと衝撃的な事実を告げた。明日から高校3年生。それはつまり、サトミの元の学年と、同じになることを意味していた。サトミは、 思いがけない 現実に、言葉を失った。妹は、自分がここにいる間に、 もう 先に進んでいたのだ。


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