表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落第女子高生、幼稚園児はじめました(休載中)  作者: 062


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

11話 濡れた朝、乾かない涙

朝、瞼を開けると、まず最初に意識したのは下半身の重さと、ほんのりとした湿り気だった。


(やっぱりだよ……)


小さく息をつきながら、身体を起こす。冷たいフローリングに足をつけ、重い腰を上げて風呂場へと向かった。昨夜、念のためにつけた大きなおむつは、案の定、朝の憂鬱を象徴するように濡れている。


温かいシャワーを浴びて、ようやく身体が目覚める。着替えを済ませ、気だるさを残しながらリビングのドアを開けると、見慣れない紺色の制服が目に飛び込んできた。


「信じられる?今日は高校初日なのにお母さんたら、体調が良くないから無理だって」


県下No.1の進学校、明王義塾の真新しい制服に身を包んだ妹、ユキが、おはようも言わずに不満をぶちまけている。紺のブレザーとスカート。125cmの小さな身体には、まだ少しばかり大きく見える。


「大丈夫、ユキなら一人で。それに、大事な時に体調が良くないのは我が家の伝統じゃない?」


そう言うと、ユキは露骨に顔をしかめて黙り込んだ。その表情には、反論したいけれど、何か言えないような複雑な感情が滲んでいる。


「私は幼稚園から応援してるよ」


精一杯の明るい声でそう言うと、ユキは小さく「別に」と呟き、重い足取りで玄関へと向かった。見送る私の背中に、彼女の不安と期待が入り混じったような気配が残る。


ユキが用意していた朝食を食べて、薬を飲んでテレビを見ながらぼんやりとしているとインターホンが鳴った。台所のモニターで確認すると、知らない女の人だった。


「文部科学省の南と申します」


オートロックを解除し、玄関へ。どこか幼稚園の田辺先生に似ている優しそうな女性が立っていた。


「改めて、文部科学省の南みなみと申します。辞任しました青木の後任となりました」


と名刺を差し出す。


「今日はお母様の体調がすぐれないという事で、私が送迎いたします」


そういうことかと合点がいった。本来ならば私を幼稚園に送って、ユキの高校に母さんも行っているはずだ。


「リビングへどうぞ、もう少し準備に時間がかかりますよ」


リビングで待ってもらい、ダイニングテーブルの朝食の食器を食洗機に入れる。 自分の部屋で髪の毛を整え、カバンを持って下へ。水筒はユキが用意してくれていた。


「お待たせしました」


そう声をかけて外へ。黒い軽自動車がとまっている。乗り込んでシートベルトをする。


「あの、南みなみさんってすごい名前ですね」

「実は私、結婚して苗字が変わったので、こんな変わった名前になってしまって」


少し恥ずかしいのか、前だけ向いて南さんが言った。


「そういえば、今日から新しい子が入ります。どうせわかる事だから言いますと、『落第』の子です。本来は小学4年生になっているはずです」


そんな会話をしてるうちに幼稚園に着いた。今日は田辺先生が出迎える日のようだ。


「おはよう、サトミちゃん」

「おはようございます、田辺先生」

「おはようございます。サトミさんの事よろしくお願いします」


南さんは何度か振り返りながら去っていく。


「サトミちゃん、早速だけどおむつ変えよっか?」

「え!あっ!はい・・・」


(出てる事に気が付かなかったよ)


そうして2人でおむつ交換スペースに行くと大きな声が聞こえてきた。


「いーやーだ!パンツがいい!」


私の妹、ユキより少し大きいぐらいの身長の子が、制服のスカートを濡らして突っ立っている。周りの子より頭一つ分大きく、泣き叫ぶ声は教室中に響き渡っていた。南さんが車の中で話していた「落第」の子で間違いないだろう。


「トウカちゃん、どうしたの?」


田辺先生が優しく声をかけるが、女の子は首を横に振って泣き続ける。


「パンツがいいの!もうおむつなんていやだ!」


その子の足元には、濡れたスカートから滴り落ちたであろう、濃いシミが広がっている。周りの子供たちは、何が起こっているのか分からず、不安そうな顔でその子を見つめていた。 田辺先生は困ったように私を見た。


「サトミちゃん、少しだけトウカちゃんのそばにいてくれるかな?きっと、同じ気持ちがわかると思うんだ」


戸惑いながらも、私は声のする方へ近づいた。泣いている女の子、トウカちゃんの目は真っ赤に腫れている。濡れたスカートをぎゅっと握りしめ、まるで世界が終わるかのように泣き叫んでいた。


「トウカ!どうしたの?何かされたの?」


突然、少し慌てた様子の若い女性が教室に駆け込んできた。その女性は、泣きじゃくるトウカちゃんに駆け寄り、心配そうに声をかけた。母親だろうか。顔には焦りの色が浮かんでいる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ