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第8話:解体と再構築の設計図

「さて、と。まずはこの鉄クズをバラすところからだな」


 ガンツは、巨大なスパナを肩に担ぎながら、プロト・ワンの前に仁王立ちした。

 その目は、これから解体する獲物を見定める職人のそれだ。


「ええっ!? バラバラにしちゃうんですか!?」


 エリアナが、悲鳴に近い声を上げる。

 彼女にとって、プロト・ワンはただの機械ではなく、自分たちの危機を救ってくれた相棒のような存在なのだろう。


『エリアナ。落ち着け』


 俺はコクピットから外部スピーカーを通して、冷静に呼びかける。


『これは破壊ではない。より優れた存在へと進化するための、必要なプロセスだ』

『マスター・ガンツの技術を信頼する』


「ふん。AIのくせに、わかってるじゃねえか」


 ガンツは満足そうに鼻を鳴らすと、プロト・ワンの脚部装甲にスパナをかけた。

 信じられないほどの膂力りょりょくでボルトを回していく。

 ギギギ、と耳障りな音を立てて、巨大な装甲版が取り外されていった。


「プロト・ワンさんが……」


 エリアナは、心配そうにその光景を見守っている。


(彼の作業を記録、分析する。今後の機体メンテナンスに有用なデータが得られる可能性が高い)


 俺は、ガンツの一挙手一投足を、センサーで詳細に記録していく。

 彼の動きには一切の無駄がない。

 どのパーツが、どの順番で、どのように組み上げられているのかを、完全に見抜いているかのようだった。


「ひでえな、こりゃ」


 ガンツは、装甲を剥がされて剥き出しになった内部フレームを、指で弾きながら吐き捨てた。


「フレームの材質がバラバラだ。これじゃあ、強い衝撃がかかった時に、歪みの逃げ場がなくて自壊するぞ」

「魔力循環のケーブルも、そこらのガラクタを繋ぎ合わせただけだろ。伝導率がゴミすぎる。嬢ちゃんの魔力の半分も性能に変換できてねえじゃねえか」


 次から次へと、的確なダメ出しが飛んでくる。

 その全てが、俺が自己診断で導き出していた問題点と一致していた。

 やはり、このドワーフの腕は本物だ。


 ◇


 数時間後。

 プロト・ワンは、見るも無残な姿でガンツの工房に横たわっていた。

 主要な装甲は全て取り外され、内部の骨格フレームが剥き出しになっている。

 俺のコアユニットと、エリアナが待機するコクピットブロックだけが、かろうじて原型を留めている状態だ。


「ふぅ……。まあ、こんなもんだろう」


 ガンツは汗を拭い、工房の隅から一枚の巨大な羊皮紙を持ってきた。

 そこに描かれていたのは、プロト・ワンとは似ても似つかない、洗練されたフォルムを持つ魔導機兵の設計図だった。


「こいつが、俺が長年温めてきた、”夢”の設計図だ」


 その声には、職人としての誇りが滲み出ている。


「骨格には、魔法金属のミスリルを使う。軽くて硬い、最高の素材だ」

「主要な装甲には、物理攻撃にも魔法攻撃にも強いアダマンタイトを。関節部分には、柔軟性のあるオリハルコンを配置する」

「これなら、嬢ちゃんのバカみてえな魔力を注ぎ込んでも、機体が暴走する心配はねえ」


(……素晴らしい設計だ)


 俺の演算能力が、その設計の完璧さを肯定する。

 強度、機動性、魔力効率、その全てがプロト・ワンを遥かに凌駕していた。

 これが完成すれば、俺たちの生存確率は飛躍的に向上するだろう。


 だが、問題があった。


『……マスター・ガンツ。その設計を実現するには、一つ、致命的な問題がある』


「わかってるさ」


 ガンツは、俺の言葉を遮った。


「材料が、圧倒的に足りねえ」


 そう。

 ミスリルも、アダマンタイトも、そこらのガラクタの山に転がっているような安物ではない。

 極めて希少で、高価な魔法金属だ。


「だが、一つだけ、当てがある」


 ガンツは、ニヤリと笑った。


「お前さんがさっき、ぶっ壊した機械の狼ども」

「あいつらは、この廃墟に打ち捨てられた魔法金属を食って、自分の身体に溜め込む習性がある」


(……スクラップ・ハウンドか)


 なるほど。

 あの残骸は、ただの鉄クズではなかったというわけか。


『わかった。すぐに回収に向かおう』


「待て、話はまだ終わっちゃいねえ」


 ガンツは、工房の奥にある巨大な炉を指差した。


「材料が集まったとして、それを加工するための炉の火力が足りねえ」

「ミスリルやアダマンタイトを溶かすには、ドラゴンのブレス並みの超高温が必要だ。俺の魔力だけじゃ、どうにもならん」


 そう言って、ガンツは……エリアナの方を、じっと見た。


「え……? わ、私……ですか?」


 エリアナは、驚いて自分を指差す。


「そうだ、嬢ちゃん」

「てめえの、制御不能なその膨大な聖魔力。あれを炉の燃料にする」

「お前の力を、この炉に直接ぶち込んでもらうぞ」


 それは、あまりにも大胆な提案だった。

 一歩間違えれば、この工房ごと吹き飛びかねない。


 だが、エリアナの瞳に、迷いはなかった。

 彼女は、まっすぐにガンツを見つめ返すと、はっきりと頷いた。


「やります……!」

「私、ロギさんや、新しく生まれてくるこの子のために、役に立ちたいんです!」


 その声には、確かな決意が宿っていた。

 捨てられたAIと、ポンコツ聖女。

 そして、国を追われた頑固な鍛冶師。

 俺たちの、最初の共同作業が始まろうとしていた。

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