【第3話】ユピテル・フォン・コーアン警務大臣
この作品はフィクションです。
実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
また、このような政策を、
実施している国・自治体は、ありません。
地下の収容所に、囚人たちの呻き声がこだまする。
鉄格子の向こうには、鎖で繋がれた男や女、そして年端もいかぬ孤児までもが、薬液の滴る点滴管に繋がれていた。
彼らは皆、私が創る『秩序』の礎だ。
「強靭な兵士に必要なのは、痛みを忘れる肉体と、恐怖を知らぬ精神だ」
私の声に、応える者はいない。
既に多くは、薬物の副作用で痙攣を繰り返すか、虚ろな目で壁を見つめるばかりだ。
だがそれでよい。成功例は一握りで十分なのだ。
私の『王国』での職務は、警務大臣。
衛兵たちを束ね、犯罪者を裁き、牢獄に捕らえる。表向きは、そうだ。
その使命を全うするために、私は『完璧な兵士』を作り出すことに邁進している。
成功した兵は、剣も魔法も恐れず、命令に盲目的に従う。
それを叶えるための『強化薬』を作ることが、この施設の存在意義なのだ。
当然『失敗作』もある。『失敗作』とは言え、投与すれば多幸感と全能感による快楽が身体を駆け巡る。
それらは市場に流し、瞬く間に周辺諸国に広まり、中毒者を生み出す。
一度依存した者は『薬』を求めて身を持ち崩し、家族を破壊し、社会を瓦解させる。
その混乱すらも、私の利益に変わる。
社会の混乱が深まれば、アゲアシトル君の『扇動』が民衆に響き、『難民』がゼーゲン君の『研修生』として、私の『治験』に加わる。
……そう、すべてが循環する。
『薬』は『兵』を作り、『兵』は『混乱』を生み、『失敗作』は『民』を蝕み、その惨状が更なる資金と権力を生む。
それらを糧に、囚人たちに投薬実験を行い、ついに完成したのだ。後は、これで……
私はユピテル・フォン・コーアン。
警務大臣にして、秩序を統べる者。
狂気を撒き散らすことこそ、国家を強固にする最短の道であると知る、唯一の賢者だ。
◇◇◇
カツ、カツ、カツ……
靴の音が、牢獄に響く。
「……来たかね」
その姿は噂通り、きらびやかだった。
「……ユピテル・フォン・コーアン。貴様の罪は重い」
……これは、チャンスかも知れない。
「祖国を憂い、世界に新たな秩序をもたらす……私に何の罪があると言うのだね?」
あの『聖国』の王が、単身で行動してるのだ。
「そのためにどれだけの人間が犠牲になった?……薬の実験をさせられた囚人、薬が蔓延して混乱に陥った民衆、そして薬で強化された兵たちによって広がる戦場!」
私の『強化薬を投与された衛兵』で捻り潰してくれるわ!
「私の『秩序』の礎になったのだ!本望だろう、てっ!!」
レバーを下げると、牢獄の柵があがる。そこには獣のような獰猛さを備えた、私の可愛い傑作たちが目を血走らせていた。
「この者たちは、私の精鋭。いかに『聖国』の王とて、この数は一人では捌ききれまい!さあ、ゆけ!お前たち!!」
雄叫びを上げながら、かの王に殺到するケダモノたち。
その爪や牙は改造が施され、獲物を見つけた口元からは、よだれが滴れている。しかし……
「哀れな……せめて苦しまずに送ってやろう」
『権能』の奔流!よもや、これほどとは!!
「我が神『ミトラ』よ!そなたは『太陽』!!
故に、滅びず。故に、跪かず。
世のすべてを見通し、悪を裁く!
今、悪に囚われし者を解放せよ!
願わくば、安らかな眠りと、健やかなる再生を!
『 聖 な る 陽 光 』!!」
激しい光に飲み込まれ、私の精鋭たちは一瞬で蒸発してしまった。
「お、おのれ……かくなる上は、私が……」
追い込まれた私は、自分自身に『強化薬』を投与しようとする。しかし……
ガツン!
後頭部に衝撃が走り、私は気を失う。
「……貴様、まだ隠し事があるみたいだな。ゆっくりと『聖国』で聞かせてもらおうか?」
こんなに、あっさりと、私の野望が……
ユピテル・フォン・コーアンを無力化した『聖国』の王は、焼けただれた周囲を見渡しながら独りつぶやく。
「それにしても『魔女殿』がいないだけで、ここまで『王国』が乱れるとはな」
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