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【第5話】パンがなければ、備蓄麦粉があるじゃない!

この作品はフィクションです。

実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。

また、このような政策を、

実施している国・自治体は、ありません。

 王都の広場には、かつてない数の民衆が押し寄せていた。


「麦がねえ!」「税ばかり取りやがって!」

「作況指数をイジったのは、もう知ってんだよ!」

「パンを食わせろ!お前らが食う分を出せよ!」


 怒号、怒声、怒鳴り声。


 麦の不作が、ついに“飢え”として民を襲い始めたのだ。


「み、皆さん、作況指数がどうとか言ってますが、そんなに大事な数字だったのですか?」


 うろたえるサラに、俺は答える。


「……確かに大事だが、麦の先物取引の価格上昇を牽制するために、“多少”高く発表した。それだけだ」


 本当のところは、作況指数によって農業保険の“不作見舞金”の条項が発動するところだったから、「平年作で100%」と発表した。だが、農家ではない庶民には関係ない。


 そもそも、作況指数の『平年作』とは何だ?


 ここに1ha(ヘクタール:1haは10,000平方メートル)の畑がある。


 老夫婦が丹精込めて、麦を育てて……まあ50俵(1俵は60kg。50俵で3,000kg)ってところか?それで暮らしていけた時代は良い。


 昨今は麦の単価が安い。老夫婦は、今までの蓄えで頑張った。しかし、体力的にも経済的にも限界を迎える。最悪、耕作放棄だ。


 そこを若くて、やる気がある農家が引き継ぐ。これで生産は維持されると思いきや、大きな落とし穴がある。


 単価が安いから、大規模化をしなければならない。まあ、10haくらいやらないと平均年収には届かない。そうなると“丹精込めて”というのは難しくなる。


 つまり、大規模化の弊害で1haあたりの収穫量が落ちるのだ。仮に1haあたり30俵としよう。


 “代替わり”を重ねるごとに、徐々に全体の収穫量が落ちていくことになる。


 対して、作況指数の『平年作』とは、丹精込めて作られた麦畑を坪刈りした結果を、担当官の主観で判断する。つまり“適当”だ。


 ここに、収穫量の乖離が生まれる。


「……それを是正しなかったのが、『王国』の落ち度なのだがな」


 俺は、ぼそりとつぶやき、サラは小首をかしげる。


 切り替えて、俺は声を張る。


「とはいえ、このままでは暴動になる……となれば、“麦粉”を出すしかない!」


「で、ですが、備蓄麦粉の倉庫は空……では?」


 最もな意見だ。だが、奥の手がある!


「5年前に収穫した“麦粉”、つまり“古古古古麦粉”が、腐るほど残ってるだろう?」


 サラは目を剥く。当然だ、“古麦粉”だって臭くて食えなくなるのに、“古古古古麦粉”だ。


「宰相さん、それって家ちk……


「おーっと!何を言ってるんだ、サラ!“古古古麦粉”は、騎士団の携行食としてクッキーなどに加工されるって法律になってるんだぞ!」


 た、確かに“古古古古古麦粉”、つまり6年前に収穫した“麦粉”は、家畜の餌として処分する法律になってるけど、“古古古古麦粉”はセーフだろ!


「とにかく、これをクッキーなどに加工して民に配る!」


「さすがです、宰相さん!それならば、民も飢えずに済むというもの!さっそく取りかかりますね!」


 準備のために、執務室から出ていくサラの背中をながめる。


「パンがなければケーキ……いや、“備蓄麦粉”があるさ、ってね」


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。広場の混乱は一変していた。


「ありがたや〜!」「さすがアラカワ様!」

「備蓄麦粉の配給だぞ! これで生きていける!」


 配給所に並ぶ民の顔は、昨日とは別人のように穏やかだった。


 “昨年製造、品質保証なし、臭気あり”の“古古古古麦粉”クッキーが、国章入りの袋に詰められ、“宰相推奨品”として堂々と配られていた。


 ◇ ◇ ◇


 玉座の間にて、今回の“麦騒動”の報告を聞く。


「宰相閣下の“備蓄麦粉”活用の提案もあり、庶民たちの混乱も収束しつつあります」


 その末席には、不満そうな目を向けてくるアルテミスの姿もある。


「助かりました、アラカワ宰相。あのままだと、他国から麦粉を調達しなければなりせんでした」


 そう声をかけてくるのは、クベーラ財務大臣。


 あの状況で、対策を練っているとは凄い胆力だ。


 その時、若き国王陛下が、すっと立ち上がる。


「……我の諮問機関として“議会”を招集する。“議会”は国民から選挙によって選ばれる」


 いつも、ボーっとしている国王が、何か寝ぼけたことを言っている。そして……


「これを【勅命】とする!」

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※時系列としては『第2章・議会編』ですが、次回投稿は『最終章・悪政の終焉』とします。

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