【第4話】正義の女騎士・アルテミス登場!
この作品はフィクションです。
実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
また、このような政策を、
実施している国・自治体は、ありません。
剣の音が、訓練場に響いていた。
「はッ! はあっ……!」
一人の女騎士が、汗を流しながら剣を振っていた。しなやかな筋肉、凛とした瞳。
アルテミス・ダ・アナトリア
庶民の出身でありながら、現国王の“勅命”によって近衛騎士となった異色の経歴を持つ。その実力は凄まじく、彼女は民の希望だった。
だが、その眉間には、拭いきれぬ疑念があった。
「……最近の報道、どれも“宰相アラカワ万歳”ばかり。麦の生育状況、野盗の発生、市民の声……何一つ載っていない」
アルテミスは訓練を切り上げると、その足で王宮へと向かった。
◇ ◇ ◇
「……ほう。正義の女騎士殿が、何の御用かな?」
俺は、いつものようにソファでだらしなく脚を組んでいた。机の上には紅茶、壁には“報道局統制法”の署名入りの写し。
「宰相、あなたは何かを隠している。報道局統制法……“真実管理法”の施行以降、情報誌や魔導通信ではニュースの質が下った!」
女騎士アルテミス。庶民出身で融通が利かない頭でっかち。普段ボーっとしている国王陛下の“勅命”で、近衛騎士の立場を得た。
まったく、国王陛下は困ったものだ……あっ、俺も国王陛下の“勅命”で宰相になったんだった!
「あんたは、俺が“報道の自由”を阻害していると言うのか?“真実管理法”は、“国のため”に機能している。民に“正しい情報”を共有するための施策だ」
その時、アルテミスの怒声が、部屋に響いた。
「……“国のため”と称して、あなたが守っているのは誰ですか? 王ですか? 民ですか? それとも自分自身ですか!?」
俺は静かに紅茶を飲んで、アルテミスに諭す。
「アルテミス、あんたの言葉は正しい。だがな、混乱の時代には“正しいだけの言葉”が、いちばん危険なんだよ」
「……っ!」
情報の統制。この言葉の意味を知らないのならば、軍属失格である。如何に庶民出身だろうが、それは例外ではない。
「情報にはフィルターが必要だ。すべてを曝け出せば、国家は分裂する。“正義”を叫ぶ声が百通りあって、それぞれが“正義のために殺し合う”。それが現実だ」
アルテミスは悔しそうに歯ぎしりしながら、手を胸に当てて凛とした声で告げる。
「それでも私は剣を掲げて、誰かの声なき悲鳴に応えるのが、私の“正義”です!」
正義。俺は、鼻で笑いながら反論する。
「それは個人の信仰だ。ならば、国の運営とは別問題だな」
そこへ、一人の男が入ってきた。騎士団を統括する軍務大臣だった。
「アルテミス!余計な騒ぎを起こすな!」
「軍務大臣閣下!なぜ、ここに!?」
軍務大臣は騎士団上がりで、無精髭を生やした豪胆な男だった。現場の騎士たちの人気も高い。
「防衛費が増強されてから、我々の予算は過去最大なんだぞ?」
「それは……」
そう。消費税の税収効果は凄まじく、各大臣に予算の増額を検討していたのだ。
「武器は新調された。兵士の食も改善された。民の支持もある。なぜ宰相に逆らう?……まさか、“正義”のためなどと、詩人の真似事でもする気か?」
アルテミスは絶句した。信じていた上司が、“利益”のために沈黙を選んだのだ。
「やっぱり、“正義”は無力ですねぇ……」
サラが、後ろからひょこっと現れて言った。
「だって皆、宰相さんに感謝してるんですもの。報道が統制された今、王都では犯罪率が下がり、騎士団の人気も上がっている。“悪”のない世界、素敵ですよね?」
犯罪率が下がってるのは、“真実管理法”によって“報道しない自由”を、報道局に指示してるからだが。
「……歪んでいる!この国は……“正しさ”の形を、どこかで間違えた……!」
アルテミスは、震える声で呟いた。
「勘違いしないでくれよ、アルテミス。俺は“正義”を否定してるわけじゃない。ただ、“正義”ってのは、予算次第で形を変える、って話だ」
俺は椅子から立ち上がり、アルテミスに笑いかける。
「この国の“正義”は、いま金の匂いがする方になびいてる。それだけのことさ」
アルテミスは、何も言わずに振り返り、その場を後にした。
◇ ◇ ◇
そしてその日、中央報道局は、こう報じた。
『アラカワ宰相、女騎士アルテミスと会談』
『“国家と騎士団のさらなる連携”を確認』
『騎士団に予算増額を指示!安全保障は盤石!』
真実は、また一つ加工され、その代わりに『王国』は平穏を得た。
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