【第3話】偏向報道は、やめろ!!
この作品はフィクションです。
実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
また、このような政策を、
実施している国・自治体は、ありません。
その日のうちに、“商人税の累進課税の撤廃”が議会を通過した。つまり、消費税制度の導入である。
大商人たちからは、歓声の声が上がった。
「累進課税は重すぎた。いや〜さすがアラカワ宰相、話が早い!」
「中小の潰れた分、我々が吸収しましょう。市場が整理されて、かえって好都合ですな」
一方、庶民たちは……悲鳴を上げていた。
「パンひとつ買うのに、金を取られるなんて……!」
「子どものミルク代にまで、税金だと!?」
街では暴動寸前の空気が流れていたが、王都の衛兵隊はピクリとも動かなかった。
「宰相閣下の命令だ。“過剰反応は民心を煽る”……つまり見て見ぬふり、ってことだ」
◇ ◇ ◇
「最近……街がざわついてるみたいです……」
午前の日差しが差し込む執務室。宰相秘書のサラは、やや不安げに声を潜めて言った。
「“消費税は民を苦しめる”とか……“税金が大商人に流れている”とか……」
サラの言葉を受けて、俺は一冊の情報誌を机の上に出す。
『王宮の闇、暴かれる!?消費税とは!?』
『影で糸を引く宰相、その素顔に迫る!』
そのような煽り文が書かれている。
「……どう思う?」
「い、いえっ!よ、読めば読むほどっ!わたくしのような小市民では、宰相さんの“深慮遠謀”を読み解けぬと……! さ、さすがです!」
サラは慌てて告げる。何が「さすが」なのかは、わからないが。
「サラ、落ち着け。これは、情報の問題だ!」
俺は、ゆったりと紅茶を飲んでから、落ち着いたサラに向かって話を続ける。
「……報道が不安を煽ってるだけだ。民の不安は“事実”から生まれるとは限らない。むしろ“不確かな言葉”ほど、人々の心をかき乱す」
サラは、目を輝かせて俺の話に賛同する。
「た、たしかに、出版社や記者にとって刺激的なネタの方が、売れ行きが伸びます。中には、デマや憶測も……そこを見抜くとは、さすが宰相さんですぅ!」
俺はうなずくと、即座に一つの法案を起草した。
報道局統制法(通称:真実管理法)。
その中身は、シンプルで明快だった。
『全報道機関は、王宮の監督下に置くこと』
『報道内容は、王宮が承認した“真実”に限る』
『“不正確または扇動的”と認定された記事は、フェイクニュースとみなす』
俺の法案を聞いたサラが、目を潤ませていた。
「む、むしろ……遅かったくらいかもしれません……!国を一つにまとめるには、やはり統一された“真実”が必要……! そ、それを、誰よりも早く見抜いておられたなんて……!」
俺はうなずき、決意をあらわにする。
「そう。真実なんてものは、誰が語るかで意味が変わる……だから語らせない、俺以外にはな」
◇ ◇ ◇
各地の掲示板と報道網には、王宮の“発表”が流れた。
『税制批判は、隣国の破壊工作である可能性が高い』
『暴動の噂は、国外勢力が流した偽情報。市民に冷静な対応を求める』
『アラカワ宰相、情報戦の最前線に立つ……王国を守るため、断固対処を宣言!』
すると、民衆の声が一変した。
「やっぱり敵国の仕業だったか!」
「危なかった……でもアラカワ様がいるなら安心だな」
「これが“真実”だよなぁ」
街には再び平穏が戻った。いや、“平穏のような空気”が、漂いはじめた。
人々は信じはじめた。だが、“真実”とは誰のものだろう?
それは、語った者のもの。
暴かれた闇よりも、塗り直された光の方が、ずっと信じられやすいのだ。
◇ ◇ ◇
「報道ってのは、料理と同じだ。素材より、調理の仕方が大事なんだよ」
俺は椅子を傾けながら言った。
「焼くか煮るか、塩でいくかソースでいくか。そういう“味付け”の話だ。けど“正しい”かどうかは……提供者の都合さ」
サラが、またもや涙を浮かべる。
「さすが宰相さんですぅ!まさに……“真実の調理人”! 世の中を味付けして、国民の胃袋にやさしい味に……!」
「悪いが俺は、やさしい味より、胃薬を売る味を好むのだがな……」
そして、今日もまた……
“報道されなかった事実”が、闇に葬られる。
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