【第5話】神の炎
※この作品はフィクションです。
※実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
※また、このような政策を、実施している国・自治体は、ありません。
星国の会議室は、奇妙な熱気に包まれていた。
大型水晶板に映し出されているのは、新兵器の概念図。
要人たちの歓声を背に、イイネ・マックスがトラップ大統領に身を寄せる。
「王国は……ミスター・アラカワは、ドウナルノ? トラップ」
軽口のような言葉に、トラップは口角を上げた。
「アラカワの最初の来訪。私は、チェックに留めた」
その声色には、アラカワとの交渉を思い返している響きがあった。
「もちろん、予定は空いていた。だが、一ヶ月待たせた。その間に、ポットは膨らむ」
イイネが肩をすくめる。
「その一ヶ月、僕に『ェクストリィーーーム』を監視させた。ミスター・アラカワを折る言葉……『星国観光』を見つけるために、ネ」
トラップは首肯する。
「成果を焦った彼は、自分からチップを積んだ……五千五百億という額を」
トラップは自分の戦果を誇るように告げる。
「そこを『星国観光』で、崩した」
イイネが手を叩く。賞賛の音だった。
「確かに、会談での彼は、ポーカーフェイスじゃなかったネ」
トラップは、静かに笑った。
「昔から、トランプは得意でね」
そのような、やり取りを尻目に要人たちが喝采を上げる。
星国は『神の炎』が、輝かしい未来を約束してくれると信じていた。
◇◇◇
「我が国は、戦略兵器『神の炎』による、内乱介入の早期解決を目指している」
星国のトラップ大統領の、各国に対する演説が流されている。
「これにより、星国が担っていた『世界の警察』としての役割のコストを下げることができる。『神の炎』の抑止力が、武力による現状変更を思い留まらせる効果も期待できる」
玉座の間に、急遽、大型水晶板が取り付けられていた。
各大臣が集まり、近衛騎士であるアルテミスたち、国民議会の議員であるレーン・フォウたち。
そして、玉座にはハーデス王が座り、虚ろな目を巨大液晶板に向けていた。
「……引き続き、技術面での説明をいたします」
トラップ大統領の演説の後に登壇したのは、星国製のAIロボット・アウロレアだった。
星国では、地球時代の偉人の名前をAIによって解析して、希望者や浮浪者、犯罪者などに適合させてみて、偉人の英霊を降ろす事業をしている。
その結果、『神の炎』を作り得る英霊を発見したというのだ。
アウロレアの解説は続く。
「……その名は、オッペンハイマー」
俺の頭の中に、前世の記憶が蘇る。
星国がいう『神の炎』とは……『核爆弾』なのか?
最終抑止。一撃で秩序を固定する力。
争いを終わらせる、合理的な解。
「……くっくっく。上等だ、星国!この世界にも『核抑止力』を持ち込むとはな!」
ならば、俺の記憶にある限りの対策をさせてもらう。
『核ミサイル』『レールガンによる撃ち落とし』『核分裂の無効化フィールド』『核を共振させて自爆させる兵器』
……極めつけは『弾頭だけを切落として核ミサイルを無力化する巨大ロボ』だ!!
俺は、それぞれを作り上げた科学者……英霊の名前を知っている。
俺は、内心ほくそ笑んでいた。
星国に、復讐する機会ができたのだからな!
俺はハーデス王の前に立ち、奏上するつもりだった。
「……陛下。『神の炎』は、戦争を止める力ではありません」
……だが気づけば、跪いていた。
なぜ、こんな行動を取ったのか、自分でも分からない。
「その兵器は、一度でも使われれば、都市は一瞬で焼け、罪なき民が消えます。
そして戦が終わっても、見えぬ毒が残り、生き延びた者を長く苦しめます。
子が子を産めぬ体となり、何の罪もない者が差別され、静かに命を削られてゆくのです」
「……そんな、ことが?」
レーン・フォウの声が聞こえたが、俺は続ける。
「人々は申します。互いに持てば撃てぬ、と。恐怖が平和を守る、と。
……ですが、それは危うき理屈にございます」
理屈ではない何かが、胸の奥から噴き上がっていた。
「抑止とは『使わぬ』ことを前提にした理屈。
しかし、作られた剣は、いつか抜かれます。
怒りか、誤算か、恐怖か。理由は些細でよいのです」
「……それはっ!」
アルテミスが口を開いて、言い淀む。そうだ。
「互いに喉元へ刃を突きつけ合うことを、平和とは呼びません。それは、震えながら立つ均衡に過ぎません」
俺は、ハーデス王の目を見る。
いつも通りボーッとして、遠くを見つめている。
「『神の炎』による抑止は、平和を作らない!
それは、睨み合いを永遠に固定する呪いだ!!」
沈黙。ははっ、やっぱりダメだったか。
……だが、ハーデス王は、静かに告げた。
「……分かった」
次の瞬間、ハーデス王の周りに、権能が渦まく!
あまりの圧力に玉座の間が、どよめく。
「……我が、守護、神『ハーデス』よ。我、を導け……神々のい、る……天界へ」
そして消える。王は、神々の元へ赴いたのだ。
程なくして、世界は更新される。
『神々と人間との契約』
その中に、明確に刻まれる。
『神の炎の所持・開発・運用を、世界そのものが禁ずる』
法ではない。『世界の強制力』だ。
……星国であろうと、例外はない。
◇◇◇
星国。アウロレアは、歯噛みした。
合理的だった。完璧だった。だが、潰えた。
『神の炎』は、強くて輝かしい星国の象徴に成り得た。
「……王国宰相、アラカワ・フォン・ノイエスフルス。世界平和を拒む、危険人物!」
アウロレアは、機械とは思えないほど、怒りの表情を見せる。
しかし、イイネとトラップは、どこか安堵したようだった。
「……やはり、こうなりまシタネー」
「ああ、彼の前世を考えれば、順当な結果だ」
イイネが呟き、トラップが応える。
「はははっ、交渉相手を徹底的に調べる……君なりのリスペクトかい?」
イイネの軽口に、憮然とした表情を浮かべるトラップ。
「ふん……何にせよ、私の勝ちだ!……『核兵器』は、この世界の人類には不要だ」
「……同感ダヨ」
星国の会議室で、二人は遠くの空を眺めていた。
※『核抑止論』は、議論すべき課題の一つですが、それは『核兵器』が拡散した現実世界でのことです。
※今、アラカワたちの世界は『核兵器』が誕生するところであり、前提が違うのです。




