【第4話】交渉の成果
※この作品はフィクションです。
※実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
※また、このような政策を、実施している国・自治体は、ありません。
「何の成果も上げられずに帰る……“星国観光”にでも、来たのかな?」
トラップ大統領の、その言葉が、俺の心に突き刺さる。
“星国観光”……世間から見れば、俺はそう映るのだろう。
『宣戦布告のフェイク映像』が流されれば、俺は神罰によって消え去るかもしれない。
……あるいは、王国そのものが世界の敵となり、滅ぼされる。
だのに、国民は、あのレーン・フォウは、美人秘書と女騎士を連れ遊び、“星国観光”をしていただのと、俺を蔑む。
……もう、嫌だ。思考よりも先に、膝が折れていた。
「……五千五百億、用意した。星国への投資金だ……これで、どうにかしてくれ!」
俺は、知らぬ間に、跪いていた。
トラップ大統領は、満面の笑みを浮かべる。そして……
「ふはははは、アラカワ宰相!……少し、怖がらせてしまったかな?」
大きな手が、俺の肩に置かれる。引き起こされ、無理やり立たされた。
「君の熱意には、心を打たれたよ……アウロレア、例の映像を消去したまえ」
トラップは振り返って命じる。しかし、アウロレアは不満そうに抗議する。
「しかし、プレジデント・トラップ。この映像があれば、今後の交渉を優位に……」
だが、イイネ・マックスが遮る。
「アウロレア、やるんだ……これは、大統領の命令デス」
数秒の沈黙の後、アウロレアは小さく一礼した。
「……かしこまりました、マスター・イイネ」
アウロレアは、俺に見えるように小型液晶板を掲げ、問題の映像を削除する。
「アラカワ宰相」
トラップが続ける。
「君は、我が星国への投資を約束してくれた。ならば私は、関税の引き下げを約束しよう。そうだな……一律25パーセントを、15パーセントだ」
……頭が、真っ白になった。
フェイク映像は消えた。関税も下がった。
「ありがとう、トラップ……これで、俺は、王国に帰れる……」
その時は何も考えられず、俺たちは星国を後にしたのだった。
◇◇◇
しかし、王国に戻った俺を待っていたのは、喝采ではなかった。
「関税が15パーセント?」
国民議会で、レーン・フォウが冷ややかに言い放つ。
「以前はゼロでしたよね、宰相?つまり五千五百億を支払い、条件を“悪化”させて帰ってきた」
周りの議員たちも野次を飛ばす。レーンの追及は続く。
「……そして、合意文書は?」
俺は、言葉を詰まらせる。
「……取り交わしていない」
レーンは眉を吊り上げ、俺を睨みつける。
「つまり、口約束ですか!?……交渉も、まともにできないとは」
嘲笑が、議場を満たした。
その瞬間、理解した。俺は成果を持ち帰ったのではない。
敗北を、数字にして持ち帰ったのだ、と。
◇◇◇
一方、星国。
アウロレアは、星国の要人たちを集め、新計画の説明をしていた。
「我々は、新たな力を手に入れます」
巨大水晶板に、投影された文字。
『神の炎』
「地球時代の偉人の名をAIで解析し、英霊として降臨させる計画。その中で、特異な適合者が見つかりました」
その名が、表示される。
『オッペンハイマー』
「この英霊ならば、“神の炎”を生み出せる。それは世界に平和をもたらすための、新たな秩序となるのです!」
会場が沸き立つ。要人たちが立ち上がり、拍手をする。
「星国は、再び強く、輝かしい国となるのです」
拍手の中で、イイネが呟いた。
「……ついに来まシタね」
「ああ……」
トラップも、頷く。
だが、二人は、どこか浮かない表情をしていた。




