【第3話】宰相、星国へ行く
※この作品はフィクションです。
※実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
※また、このような政策を、実施している国・自治体は、ありません。
「また、お会いしましょう……王国の宰相」
ボロ外套を拾い、また被るアウロレア。
……まずい。逃げられる!
「どうしました、宰相!」
騒ぎを聞きつけ、近衛騎士団所属の女騎士・アルテミスが駆けつける。
「ちょうど良かった、アルテミス。星国がスパイロボットを送り込んできた。決定的な映像を撮られてしまった!」
アルテミスは、俺を見て、露骨に顔を歪めた。
「あなたは、いったい何を言ったのですか!?……それは、あとで聞かせてもらいます。今は!!」
そう言って、逃走する星国の機械人形に目を向ける。
「……我が守護神『アルテミス』よ!我に力を与え給え!」
月は……出ている!新月に近い、外輪を残すばかりだが、確かに空に浮かんでいた。
『権能』の力が、アルテミスの周りに渦まく。単純な筋力強化のようだが、その脚力はアウロレアに追いすがる。
「月光よ!我が姿を隠し給え!」
その瞬間、アルテミスの身体が消える。
上手い!どこから攻撃されるか分からなければ、アウロレアとて対処は難しいはず。
「姑息な真似を……サーモグラフィー!」
アウロレアの目が光る。そして大きくジャンプして、足を狙ったアルテミスの剣撃を回避してみせた。
「くっ!」
「丸見えですよ、女騎士様?」
月光の偽装を解き、剣に権能の力を貯めるアルテミス。
しかし、一台の馬車が通りかかり、アウロレアはそれに飛び付く。
走り去る馬車。流石に生身の人間では、馬車には追い付けない。
観念して戻ってきたアルテミスが問う。
「宰相。彼女が撮った映像とは、何だったのですか?」
俺は、正直に応える。
「……星国の関税引き上げに対する、国民の不安を抑えるために、強い語気で演説をした。それをヤツは『宣戦布告』のフェイク映像に、その場で加工してみせた」
アルテミスの眉間に、シワが寄っていた。
「率直に言います。あなたは、あまりにも迂闊です。このままでは、フェイク映像をダシに、星国から無理難題を吹っ掛けられます!」
「……わかっている」
本当だ。理解はしている。
だが、理解していたところで、状況は待ってくれない。
「宰相さん……」
駆け寄ってきたサラの声が、不安に揺れていた。
「ならば、行くしかあるまい……星国へ」
俺は拳を握り、決断した。
◇◇◇
一国の宰相が直接赴けば、当然、相応の対応がある。
……そう、信じていた時期も、俺にはありました。
「……で、アポイントは、ございますか?」
星国行政府の受付は、驚くほど事務的だった。
「俺は王国の宰相だぞ!当然、大統領との会談が……」
「……予定にありませんね。アポイントを取ってからお越しください。本日は、お引き取りを」
冷たい。あまりにも冷たい。
「宰相!」
「宰相さーん!」
同行していたアルテミスとサラの声が、余計に惨めさを際立たせる。
「ぐぬぬ……宿に戻るぞ!」
肩をワナつかせて、行政府を後にする俺たち。
その様子を、楽しそうに眺めている男がいた。
「ハー、ハハハッ……ミスター・アラカワ。トラップの交渉術の罠に、はまってマースね」
イイネ・マックス。
魔導車両の成功で巨万の富を築き、SNS『ェクストリィーーーム』を創設した男。
名前が長いだの、ダサいだの散々言われながらも、星国世論を掌握し、今やトラップ政権の相談役となった。
イイネは『ェクストリィーーーム』の膨大な言語データを背景に、AI開発に乗り出した。
そして……アウロレア・シリーズが完成した。
◇◇◇
宿泊所で、正式なアポイントを取る。
結果……会談は、一ヶ月後。
「……くそっ!一度、王国に帰るぞ!」
だが、帰国した俺を待っていたのは、さらに冷酷な現実だった。
「アラカワ宰相」
国民議会で、レーンが立ち上がる。
「あなたが、星国の関税交渉と称して“星国観光”に行っていた件、把握しています。弁明は?」
改革の戦乙女。民意の代弁者。レーン・フォウの目が、俺を射抜く。
「ち、違う!アポイントが取れてなくて、宿泊所から……」
「それなら、王国の執務室からでも可能だったはずです!」
レーンの声が鋭くなり、侮蔑の表情を浮かべる。
「美人秘書と女騎士を連れて……破廉恥な!」
た、確かに、サラはグラマーで可愛らしいし、アルテミスは凛々しくて騎士団内にもファンがいると言う。
……違う違う、そうじゃない!
「……ちが、俺は……」
「問答無用!!」
こうして、俺の“星国観光疑惑”は、国中に知れ渡った。
◇◇◇
一ヶ月後。
正式な会談の場には、トラップ大統領、イイネ相談役、そして……スマホを持ったアウロレアがいた。
俺の背後には、秘書のサラ。そして護衛としてアルテミスが控えている。
それを取り囲むように、星国の護衛が取り囲んでいた。
挨拶もそこそこに、俺は訴えた。
「国際分業の観点から、星国が『世界の警察』を降りることは認められない!」
ため息。トラップとイイネが、揃って息を吐く。
「……あなたは、要求できる立場ですか?」
アウロレアが、スマホを操作する。
例の“宣戦布告フェイク映像”。
「私たちは、いつでもこれを世界に発信できますよ?」
「……ぐぬぬ」
この世界で、戦争は禁忌だ。
この映像が出回れば『世界の強制力』……つまり、神々の意思によって、俺が消されるだけで済めば軽い方だ。
その様子を見て、イイネが口を開く。
「ミスター・アラカワ。僕は、君にガッカリしマーシた」
「アラカワは、苗字ではない!」
俺は、アラカワ・フォン・ノイエスフルス。日本人的な感覚なら、確かに苗字だと思うわな。
「ゴホン……トラップと渡り合えるのは、君だけだと思ってたのデース」
沈黙を破り、トラップ大統領が言う。
「話にならないな、アラカワ宰相。遠路はるばる星国に来て、何の成果も上げられずに帰る」
顔を歪め、俺を見下す。
「……“星国観光”にでも、来たのかな?」
その言葉に……俺は、知らぬ間に、跪いていた。
「宰相!!」
「宰相さん!?」
アルテミスとサラは、驚きを隠せない。
……もう、嫌だ。確かに、激情のままに星国を訪れた。だけれど、あることないこと囁かれる。
情報管理局に『消し込み』を依頼しても、止められなかった。
「……五千五百億、用意した。星国への投資金だ……これで、どうにかしてくれ!」
……その瞬間。
トラップ大統領は、満面の笑みを浮かべた。




