【第2話】改変される演説
※この作品はフィクションです。
※実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
※また、このような政策を、実施している国・自治体は、ありません。
星国が関税を引き上げる……その報は、王国中を揺らした。
星国が提示した条件は、単純明快だった。
すべての国に対し、一律25パーセントの関税。
街では人々が騒ぎ、広場では怒号が飛び交い、酒場では不安と憶測が酒精に溶けて膨らんでいく。
「生活必需品が高くなるぞ!」 「星国は、俺たちの敵になるってのか?」「トラップ大統領は危険だ!」
生活の不安と、外交の恐怖と、誰かを悪者にしたい感情が、無秩序に混ざり合っていた。
……正直に言えば、理解できなかった。
関税が上がったからといって、王国の民が明日から飢えるわけではない。
王国内で作られた商品が、星国に売れなくなるだけの話だ。
なぜ一般庶民が、ここまで動転する?
『不安』が民衆を煽り立てる。しかし、正しく自分たちの置かれた立場を理解している者は、一握りだった。
そんな一般庶民を尻目に、利益を追及して、真っ先に動く者たちがいる……商人だ。
王宮には連日、大商人たちが詰めかけていた。
星国に物が売れない。輸出が滞る。利益が減る。
それは、極めて正しい反応だった。
特に、俺の執務室を訪れたのは……王国経済の中枢、四大商会の会長たち。
ゼウス商会。
ゼウス商会。
ゼウス商会。
ゼウス商会。
……そういえば、全部同じ名前だったな。
最後に現れたのは、ゼウス商会会長、ゼウス・エチゴーヤ氏。
貫禄のある腹回りと、真剣すぎる目つきの男だ。
「宰相閣下。このままでは、王国経済が……」
「心配には及ばない、ゼウス会長」
俺は、遮るように言った。
「星国には、関税引き下げの見返りとして、星国への投資を交換条件に用意している。その額……五千五百億ゴールド」
エチゴーヤ氏が、目を見開いた。
「……えっ」
「……あの、それって……国庫から……?」
横で、サラが恐る恐る口を挟む。
本当に、この娘は国庫を我が子のように心配する。
「大丈夫、大丈夫。そのための消費税だ」
俺は、笑顔で答えた。
「今後も、消費税は増税していく予定だ。採算は取れる」
だが、エチゴーヤ氏は、浮かない表情を見せる。
「……ですが、それでは国内消費が落ち込み、経済が回らなく……」
……これ以上、ごねられても困る。
「ああっと、申し訳ない。俺は次の予定があって」
立ち上がり、サラに視線を送る。
「サラ。ゼウス会長をお見送りして差し上げろ」
これで、この話は終わりだ。
◇◇◇
その日の午後、俺は議会補欠選挙の応援演説に立った。
“親宰相派”を維持するためには、顔を出さねばならない。
演説台に立ち、候補者を持ち上げる。
……ふと、星国のことを思い出した。
今は、国民の不安を押さえつける言葉が必要だった。
「……あと、星国の関税引き上げについて、みなさん、不安を感じていると思います」
俺は語気を強める。人々の視線が集まる。
「ですが、安心してください!王宮は、星国と交渉している!」
俺は、拳を握って訴える。
「これは、国益を賭けた戦いだ!舐められて、たまるか!!」
その瞬間。どこかで、静かに“記録”が行われていた。
「ふふふ。王国の宰相、アラカワ・フォン・ノイエスフルス……迂闊ですね」
小型液晶板を持ちながら、ボロ外套を頭から被った人物が、大衆をかき分けて近づいてくる。
俺の目の前で、その外套を投げ捨てる。
「私は、星国のAIロボット……アウロレア」
メタルボディに包まれた存在は優雅に一礼し、名を名乗る。
「今、私は、あなたの決定的瞬間を“撮影”しました」
そして、ワンボタン。小型液晶板が動き出す。
語調を切り取り、間を詰め、前後の文脈を削ぎ落とす。
小型水晶板に映し出された映像。
『“星国の暴挙を許してはおけない!”
これは国益を賭けた戦いだ!
舐められて、たまるか!!』
……確かに、俺の声だ。
だが、それは、まるで“宣戦布告”のように改変された、俺の演説だった。
アウロレアは、淡々と告げる。
「情報とは、事実ではありません。“信じられる形”です」




