【第1話】星国第一主義
※この作品はフィクションです。
※実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
※また、このような政策を、実施している国・自治体は、ありません。
星国の新しい大統領が誕生した。
秘書のサラが、愛用の水晶板を、俺に見せてくる。
画面の向こうでは、巨大な壇上に一人の男が立っていた。どうやら就任後、初の公式演説らしい。
年齢はそれなりだが、姿勢は妙に若々しい。いや、どちらかというと攻撃的だ。口元に浮かべた獰猛な笑み、肩を怒らせた立ち方、そして間の取り方。
……それらも恐らく、彼の演出。
「我々は、素晴らしい時代を迎えようとしている!私が目指すのは……『星国第一主義』だ!」
男が叫ぶと、会場が割れんばかりの歓声に包まれた。
水晶板越しでも、熱狂の温度が伝わってきた。
「私は、ドウナルノ・トラップ! 我が国を、再び、強く、輝かしい国にする大統領である!」
……とんでもない大統領が誕生したものだ。
『星国』。正式名称、五十星自由連合国。
この世界で最も徹底した現実主義を貫く国家であり、王政ではなく議会制民主主義を採用する、数少ない大国の一つだ。
その成立は特殊だ。古い王家や神話的英雄を中心に築かれた国ではない。迫害や貧困、宗教対立から逃れた移民たちが、寄せ集まって国を作ったのだ。
「自由」という言葉を旗印に、理想を掲げ、妥協を重ね、拡大してきた国。
理想主義の皮を被った、極端な実利主義……それが、俺の星国に対する評価だった。
そして、その国民性は『権能』の在り方に、如実に現れている。
『権能』。この世界では、伝説や伝承に名を残す神や英雄の名を名乗ることで、その能力を行使できる。
普通の国であれば、より古く、より強大な神格を求める。原初の神々、天地創造の存在、雷霆を司る王神……
結果、どの国も似たり寄ったりになる。
ゼウスだの、ユピテルだの、雷おじさんの品評会だ。皮肉な話だが。
しかし、星国は違った。彼らは気づいてしまったのだ。
……文明が進んだ“未来”において、偉業を成した人物の名を名乗る。
そうすれば、その“叡智”そのものが、権能として現れる、と。
軍事理論、経済モデル、情報統制、心理誘導。
神の雷を落とすより、よほど現実的で、よほど再現性があり、よほど恐ろしい力。
……俺は、そんな事を考えながら、星国が再現した水晶板を眺めた。
「『星国第一主義』を実現するために、私は世界の国々に要求する」
トラップ大統領は、一拍置いた。
そして、まっすぐに、カメラを睨みつける。
「すべての国々との、関税を引き上げることを!!」
……や、やりやがったな!?
「……宰相さん。これは、どういうことですか?」
サラが青ざめた顔で、水晶板と俺を交互に見つめる。
星国は、単なる経済大国ではない。
技術力を背景に軍需産業が発展し、長年『世界の警察』として振る舞ってきた国だ。
各国の内乱に介入し、紛争を調停し、航路を守り、制裁を執行する。
神々が定めた『第9条・戦争の放棄』がある限り、国家間の戦争はない。
しかし、暴動、内乱、紛争は無くならない。
各国は緩やかに軍縮をするために、それらを星国に外注する方向でまとまった。
国際分業において星国が軍需産業を受け持ち、軍隊を保有することを認めたのだ。
俺は、それを否定しない。むしろ、評価している。
だからこそ、関税引き上げという一手は、単なる経済政策では終わらない。
トラップ大統領の無理難題に対して、世界は『世界の警察』である星国を切れないのだ。
だが、トラップ大統領は、続けた。
「そして……我が星国は、『世界の警察』という役割を降りる!」
俺は、思わず声を失った。
頭の中で、積み上げてきた前提が、音を立てて崩れる。
世界の秩序。均衡。力による抑止。
それらすべてが、たった一言で否定された。
俺は、無意識に唾を飲み込んでいた。世界は確実に、別の段階へと踏み出したのだった。




