【第2話】消費税の導入と秘書の登場!
この作品はフィクションです。
実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
また、このような政策を、
実施している国・自治体は、ありません。
「しっ、失礼いたしますぅぅ!!」
勢いよく開かれた俺の執務室の扉。その隙間から少女が飛び込んできた。
金縁眼鏡に、腰のあたりまである艷やかな髪。その表情は幼さを感じさせつつも、柔らかな笑みをたたえていた。
「ざ、財務局より出向してきました、サラと申します!こ、今月より、秘書としてアラカワ宰相のおそばに……え、えっとぉ……?」
財務局ってことは、クベーラ財務大臣の推薦か……わきまえてるな。
「はいはい。わかった、わかった。よろしくな、サラ!」
サラの目が、キラキラと輝く。
「満足にご挨拶もできない私を、フレンドリーに迎えてくださるなんて!やはり、噂の天才宰相・アラカワ様!さすがでございますぅぅぅぅ!!!!!」
そして何ていうかグラマーだった……天然だけど。
俺は、サラの後ろに立つ人物に気付く。
「ところでサラ。そちらの方は、どなたかな?」
サラは、後ろを振り向き、忘れてた、とばかりのリアクションを見せる。
その人物は執務室に入り、俺に挨拶をする。
「お初にお目にかかり、光栄にございます。私は『ゼウス商会』のゼウス・エチゴーヤ。本日は宰相閣下にお願いがあり、参上いたしました」
うわっ、出たよ!『王国』の四大商会は全て『ゼウス商会』を名乗っている。確か、エチゴーヤ氏の商会は……
「おお!あんたが、王国の北西部を束ねる大商会『ゼウス商会』の、ゼウス会長なんだな?」
どうやら正解だったらしく、エチゴーヤ氏は顔を綻ばせる。
「さすがは、アラカワ宰相閣下。私の『ゼウス商会』をお見知り置きいただき、嬉しく思います」
いやいや!お前らが変なプライドで『ゼウス商会』を名乗り合ってるから、国民全員が不便してるんだよ!『越後屋商会』とかに改名しろよ!
「ではゼウス会長、要件を聞こうか?」
俺が促すと、エチゴーヤ氏は恐る恐る陳情する。
「はい。『王国』は、クーd……失礼、政変の影響から抜け出せていません。民は疲弊し、私たち商人は野盗に怯えながら、日々の商売に励んでますが、売れ行きは芳しくありません」
政変。現国王が、先代の女王……『魔女』を討ち取った内戦。ぶっちゃけ、他の『ゼウス商会』も陳情に来ているから、エチゴーヤ氏の言わんとすることはわかる。
「……どうか宰相閣下のお力で、民と私たち商人を、お救いください!」
俺は、エチゴーヤ氏の顔をまっすぐに見る。
「ゼウス会長。俺は、あんたの『王国』への忠誠心に感銘を受けた。確かに商人は税を負担し、『王国』を支えてきた。俺は『王国』の宰相として、国王陛下の信任のもと、商人税の累進課税の撤廃の審議を始めることを約束する!」
「ありがたk……えっ、ちょっとそれは違うのでは?」
もちろん、他の『ゼウス商会』にも、こう言ってやった。
俺が一件落着と思っていたら、おずおずとサラが手を挙げる。
「あのぉ、宰相さん。そのぉ……財源は、どうしたら良いでしょうか?」
ぐぬ!天然だと思ってたら、この娘、なかなか鋭い!?
「これは審議で提案しようと思っていたが、『消費税』を導入する予定だ」
「しょ、『消費税』っ?それって、どういう!?」
聞き慣れない言葉に、サラもエチゴーヤ氏も俺の顔を見る。
「簡単なことだ。商人たちが負っていた税を、国民全体で分担する。広く税負担を求めるんだ。それならば、消費する度に自動で徴税できる『消費税』が安定的な財源になるだろ?」
俺の説明に、サラは目を輝かせる。
「さすがです!宰相さんは、やっぱり天才宰相様ですぅ!」
しかし、エチゴーヤ氏は何やら唸っている。
「宰相閣下。それは、商人側が払う税なのでしょうか、それとも国民……消費者側が払う税なのでしょうか?」
ほう、さすが四大商会の一角といったところか。
「商人側は『消費税』分を、あらかじめ商品に価格転嫁しておく。そうすれば、消費者側に税負担を求めることができる。法律上は商人側が負担するが、実際に負担するのは消費者である国民だ!」
サラは恍惚として、俺の説明を聞いている。しかし、
「で、ですがそれは……貧民層、いや……中小の商人にとっても!?」
なおも、エチゴーヤ氏は食い下がる。
「中小が潰れても、大商人が吸収すれば供給体制は維持される。むしろ流通は一元化され、効率的になる。国家にとっても、監督と課税がしやすくなる……何か問題が?」
「し、しかし、そうすれば貧富の格差が……!」
俺は、ニヤリとエチゴーヤ氏に笑いかける。
「それが“淘汰”ってやつさ。時代は弱者救済じゃない。“効率化”だよ……あんたも、商売がやりやすくなるんじゃないのか?」
俺の話を聞いて、なぜかエチゴーヤ氏は、うなだれてしまった。
こうして、“弱者に優しい税制”は終わりを告げ、“誰もが平等に苦しむ時代”が始まった。
高評価&ブックマークをいただけると、大変励みになります。