【第4話】改革の戦乙女
※この作品はフィクションです。
※実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
※また、このような政策を、実施している国・自治体は、ありません。
※今回はレーン・フォウ視点です。
◇◇◇
白い軍服。高く立てられたカラー。それが私の“戦闘服”だ。
民衆の代表として、国家権力に戦いを挑み、殉ずる覚悟……それを、この服は与えてくれる。
王宮の正門前には、連日、人だかりができていた。
議会の開場時刻になると、民衆は議場を見上げ、白い軍服の女を探す。
私が姿を現すと、歓声が波のように押し寄せた。
「レーン様だ!」「改革の戦乙女!」「無駄遣いを斬ってくれ!」
その声は、期待というより、確信に近い。
もう勝敗は決している。そう信じ切った熱だ。
報道機関も、私たちに味方をした。
朝刊の見出しが目を引く。
『事業仕分け、痛快!』『改革の旗手、レーン・フォウ』『王宮の無駄を斬る戦乙女』『王宮の闇、次々露見』
号外では、削減された部署の名が赤字で踊り、まるで戦果の一覧のようだった。
夕刻の街頭放送では、私の演説の一節が切り取られ、英雄譚のように流される。
議会に入る。同胞議員たちの士気は高い。
勝利を疑っていない。努力が、結果として現れるからだ。
「レーンさん!『事業仕分け』、効いてますよ!」
「宰相の顔、見ましたか?苦虫を噛み潰したような顔で!」
確かに、宰相のアラカワは、沈黙している。
議場の隅で、腕を組み、ただこちらを見ているだけだ。
「あ、ああ……」
曖昧に頷きながら、私は笑えなかった。
……私だけが、どこにも辿り着けていなかったのだ。
事業仕分けは、確かに成果を上げていた。
魔導研究、防衛魔法、王族関連事業……
聖域とされてきた予算に、次々と光を当て、晒し、削減する。
「削減します」
そう告げると、傍聴席から喝采が上がる。
報道官は競うように筆を走らせ、翌日には“無駄の象徴”として名指しされる部署が生まれる。
正しい。正しいはずだ。
だが夜になると、財務局が作成した仕分けリストを、私は血眼で見る。
『埋蔵金』王宮の奥底に眠るはずの、莫大な不正蓄財。その額が、少なすぎるのだ。
切れば切るほど、見えるはずなのに。
暴けば暴くほど、溢れるはずなのに。
国民の熱狂とは裏腹に、私の中で、言葉にならない不安だけが積もっていく。
◇◇◇
事業仕分けの日程が終わる。
議場は、祝祭のような空気に包まれていた。
同胞議員たちは互いに握手を交わし、傍聴席では拍手が鳴りやまない。
「やりましたね、レーンさん!」
「歴史に名を残しましたよ」
「昨日の報道でアラカワが、反省の弁を述べてましたよ!」
誰もが、満足している。
報道機関はすでに“改革完遂”の見出しを用意している。
改革は成功し、王宮は浄化され、歴史は前に進む……その物語は、もう動き始めている。
「確かに……『埋蔵金』は思ったほどではありませんでしたが」
誰かが、そう言った。
その瞬間、胸の奥で、何かが引っかかった。
私は、宰相と財務局が作成した仕分けリストを見比べる。
アラカワは、これまでずっと、沈黙していた。
苦虫を噛み潰したような顔で、議場の隅に座り、何も言わず、何も抗議しなかった。
その宰相が、こちらを見て。
……ニヤリと、笑ったのだ。




