【第3話】埋蔵金を隠せ!
※この作品はフィクションです。
※実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
※また、このような政策を、実施している国・自治体は、ありません。
◇◇◇
「いいか……『埋蔵金』を、隠せ」
仕分け委員会の設立準備に追われる王宮で、俺は秘密裏に大臣たちを集めていた。
これから始まるのは、議会主導の『事業仕分け』……要するに、国民の前での公開処刑だ。
「なんとしても『事業仕分け』が始まる前に『埋蔵金』を隠すんだ……あんたらは優秀だと、俺は思っている。だから、あとは分かるな?」
俺は、淡々と言い切った。
「あの、麒麟児の宰相が?」「……これは、もしや」「宰相は、国王派ではなかったのか?」
なんか聞こえたが、今は無視だ。やることが多い!
政治は魔法じゃない。弱味を見せないことが、最大の防御だ。
◇◇◇
仕分け委員会が発足し、『事業仕分け』の準備が始まった頃。
「……またですよ、宰相さん」
秘書のサラが、水晶板を見ている。
「王国各地で“革袋に入った金貨”が、発見されているみたいですぅ。雑木林、河原、廃棄された倉庫……とにかく大量らしいです」
ほぉ。紙袋に入った札束……ならぬ、革袋に入った金貨ねぇ。
「すごいですねぇ……それがあれば、国庫が潤うのにぃ」
「……この娘、なんか感性がズレてるんだよなぁ」
ん?……俺は、妙な既視感を覚えて、考えを巡らせる。そして……
「……ってか、アゲアシトル情報管理大臣を呼べ!今すぐだ!!」
ゼウス・フォン・アゲアシトル男爵。
コーアン警務大臣が、情報管理大臣へと推薦した男。
その業務は、報道局統制法(通称:真実管理法)によって掌握した報道機関を『監督』することだった。
「……お呼びですかい、宰相の旦那?」
三十代と若い、ヘラヘラとした男がやって来る。
……いや、俺の方が若いんだが。
「大臣。“革袋に入った金貨”の報道を止めさせろ」
「どうしてです?景気が良くて、結構なことじゃないですかい?」
俺は、腸が煮えくり返りそうだった!
「お前はバカかっ!?あれは『埋蔵金』だ!すぐに報道規制をしろ!!」
「はっ、は、はいぃぃぃっ!!」
泣きそうな顔で走り去るアゲアシトル。
それらの革袋は『埋蔵金』を隠すために、各部署が投棄したものだった。
『埋蔵金』は二種類ある。帳簿に積立金として計上し、実体を持たないもの。
もう一つは、部署の秘密金庫に金貨の形で入れているもの。
後者を投棄して、ほとぼりが冷めたあと、回収するつもりだったのだ!
まったく……議会より先に、味方が敵になるとは。
◇◇◇
そして『事業仕分け』が始まる。
議場は、異様な熱気に包まれていた。
中央の席に座るのは、国民議長レーン・フォウ。
白い軍服。高いカラー。指揮官のような鋭い目。
「次、魔導研究局。こちらの予算ですが……」
財務局が用意した“仕分けリスト”に基づき、次々と部署が呼び出され、詰問されていく。
「防衛魔法への投資が過剰です」
「王族関連事業、この娯楽費は何ですか?」
議場が、どよめく。
「……これは、“王族の娯楽費”!?ふざけていますね」
レーンが、書類を叩きつけた。
「削減します」
拍手。歓声……完全に、彼女のペースだ。
俺は、一切口を出さない。
「次は、教育局……魔導計算機の予算案です」
教育局の官僚が説明をする。王国は、世界第二位の水準である。それは並々ならぬ努力の結果。ここで遅れを取れば、今までの苦労は水の泡。この予算があれば、世界第一位となることも可能……
説明の最中に、レーン・フォウは立ち上がり、観衆を見回した。
「二位じゃ、ダメなんですかぁ?」
その言葉に、議場が爆発した。
国民は喝采し、議員たちは立ち上がる。
教育局や研究者たちの苦労は、ちっぽけな自尊心を満たすための無駄遣いだと蔑まされてしまったのだ。
レーン・フォウは、俺を睨みながら言う。
「……さあ、『事業仕分け』を続けましょう」




