【第2話】国民議長の就任演説
※この作品はフィクションです。
※実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
※また、このような政策を、実施している国・自治体は、ありません。
◇◇◇
国民議会の発足の日。
王都中央に新設された議場は、異様な熱気に包まれていた。
半円状に並ぶ議席には、選挙を勝ち抜いた議員たち。
それに向かい合うように、俺……宰相アラカワをはじめ、各省の大臣たちが脇に控えている。
そして正面、玉座には国王ハーデス陛下。
王政の象徴と、民意の象徴が、同じ空間に同居している。
この時点で制度としては、だいぶ歪だ。だが今は、それでいい。
やがて、拍手に迎えられて一人の女性が、玉座より一段低い正面の壇上に立った。
白い軍服。高いカラー。選挙戦のときと変わらぬ姿。
トップ当選を果たしたレーン・フォウは、国民議会の代表として演説を始める。
「本日ここに、国民議会は正式に発足しました」
凛とした声が、議場に響く。
「王政の歴史ある、この王国において、民が直接選んだ代表が集う場が設けられたこと。これは、歴史的な一歩です」
議員席から拍手が起こる。
対して、大臣席は重苦しい沈黙だ。
レーンは一拍置き、視線を鋭くした。
「だからこそ、私は最初に、これを訴えます……王宮の『埋蔵金』を、あばき出す」
……やはり来たか。
「国民の血税は、国民のために使われるべきです!どこに消えたのか分からない予算、不透明な支出、それらを白日の下に晒す!」
レーン・フォウの言葉に、議員席は沸騰した。
一方で、大臣たちは顔を歪め、小声で不満を漏らす。
「無礼だ……」「何を根拠に……」「感情論だろう」
俺は黙って様子を見る。この程度は、想定内だ。
「そのために、まず提案があります。国民議会の代表に、正式な発言権と調整権を……」
議場がざわつく。
「議員による首班指名選挙を行い、最得票者を……『国民議長』とするのは、いかがでしょうか!」
大臣たちが一斉に立ち上がり、非難の声を上げる。
「前例がない!」「王権を侵す気か!」「危険すぎる!」
当然だ。これは“第二の権力”の誕生を意味する。
だが……玉座の方から、かすかな音がした。
ハーデス陛下が、震える手で肘掛けを掴み、ゆっくりと口を開く。
「……【承認】」
空気が、歪んだ。
一言。だが、確かに『世界の強制力』が、言葉に宿っていた。
んなっ?【勅命】じゃなくても効くのかよ!?
「くっ……ハーデス陛下の、御心のままに」
臣下の筆頭である宰相の俺は、そう言って頭を下げる。
不満を抱えたまま、大臣たちは一斉に頭を下げる。
絶対的強制力……逆らえない。もう、決まったことだ。
その瞬間、レーン・フォウの身体が、淡く光った。
『世界の強制力』は、トップ当選を果たしたレーン・フォウを、暫定的に『国民議長』として認めるようだ。
「……ありがとうございます」
一礼し、畳みかける。
「つきましては……『事業仕分け』を行う専門部署、仕分け委員会の設立を許可願います!」
議場が凍りついた。
「『事業仕分け』とは、各部署の無駄を洗い出すために、御前にて会議をするものです。その様子は、広く国民に知らしめる必要があります……何卒、許可を!」
これは……やられたか?
大臣たちの視線が、玉座に集まる。
「……【承認】」
ハーデス陛下の声は、弱々しい。だが、確かに言った。
……その瞬間、俺の口が勝手に動く。
「……お任せください、ハーデス陛下。国民議長と連携し、『事業仕分け』を円滑に執り行います」
大臣たちも、俺に追随して頭を下げる。
議会主導の『事業仕分け』……それは、正式に発動された。
「……よろしくお願いしますね、宰相閣下」
壇上からレーン・フォウは、俺を睨みつけるのだった。




