【第1話】議会を設立せよ
※この作品はフィクションです。
※実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
※また、このような政策を、実施している国・自治体は、ありません。
◇◇◇
麦騒動は、なんとか誤魔化すことができた。
大臣たちは安堵に包まれていたが、玉座に注目が集まる。
若き国王……ハーデスが、すっと立ち上がったのだ。
「……我の諮問機関として“議会”を招集する。“議会”は、国民から選挙によって選ばれる」
いつも、ボーっとしているハーデス王が、何か寝ぼけたことを言っている。そして……
「これを【勅命】とする!」
【勅命】。俺を宰相にして、アルテミスを近衛騎士にした特権。
ただの王の命令じゃない。恐らく『世界の強制力』ってのが、働いている。つまり……
その場の全員が、玉座を向いて臣下の礼を取る。
そして、代表して俺の口が、勝手に動く。
「万事お任せください、ハーデス陛下。議会の招集、そして国民による選挙……我らが承りました」
逆らえない。絶対の命令権……それが【勅命】!
「……くっ!」「忌々しい……」「……いや、この力があれば」
あーあ、聞かなかったことにしとくよ?
それより、議会の設立に選挙だ。忙しくなるぞ。
◇◇◇
「……やりゃあ、できるもんだな」
いや、まさか一ヶ月で、選挙まで漕ぎ着けるとは思わなかったわ。
「宰相さんとみなさんの努力の結果ですねぇ!……国庫には、大穴が空きましたけど」
こいつは、秘書のサラ。クベーラ財務大臣が推薦した、まあ、財務局からのお目付け役だ。
国民から税金を搾り取ることと、支出を抑えることを美徳とする思考の持ち主だ。
……あと、天然でグラマー。
「宰相さん。ハーデス陛下の狙いは、何なのでしょうか?王政である王国に、議会制を併設するなんて!」
議会制を敷いている国は、存在する。表向きは、その国の制度を参考にした、と言ったが、転生者である俺は議会制も選挙も知っている。
「……俺への当てつけだろか?ハーデス陛下にとって、俺は頼りないらしいな」
「そんな、宰相さんは頑張っていますぅ!だって、消費税を整備したり、麦騒動での国庫の支出を抑えたりしてるのですから!」
だからだよ!……まあ、いいや。
王政だろうが、議会制だろうが関係ない。俺は悪政をするまでだ。
議会が立ち上がれば、旧体制を打破しようとする。
それがハーデス陛下が狙う、緩やかな民主化だろうな……なら、無能なフリをしてないで、積極的に動けば良いものを。
「……ところで、サラは気になる候補は居るかい?」
「えーっとぉ……彼女なんて、どうですかぁ?」
サラは、水晶板の記事を見せてくる。
白い軍服。高く立てられたカラーが、彼女の意志の強さを象徴していた。短く刈り揃えられた角刈りの髪。鋭い眼差しは群衆を射抜き、背筋を伸ばして壇上に立つ姿は、まるで戦場に臨む指揮官のようだった。
その名は、レーン・フォウ。
◇◇◇
広場に、女性の声が響く。
「不明朗な予算、不透明な支出、誰のためにあるのかわからない政策!それらすべてに、民の声を突きつけます!」
群衆がどよめき、やがて歓声に変わる。
拍手。喝采。熱狂。彼女は、演説を続けた。
「私は、破壊者ではありません。秩序を、民の手に取り戻すのです!」
この言葉は、瞬く間に王国中へと広がった。
選挙の結果は、誰の目にも明らかだった。
レーン・フォウは、トップ当選を果たし、王都に凱旋した。
民意を背負った象徴として、国民議会の中心人物となっていく。
選挙は実施され、議会は設立された。
……ここまでは、ハーデス陛下の思惑通り。
「……なるほど。レーン・フォウ、実に見事だ」
選挙戦の勝ち鬨を上げるレーン・フォウを、俺は遠くから見下ろすのだった。




