【エピローグ】新川修司
この作品はフィクションです。
実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
また、このような政策を、
実施している国・自治体は、ありません。
クベーラとの対立、そして和解。
その後、俺は膝をつき、そのまま前のめりに倒れ込む。
視界の隅が白く焼け、やがて走馬灯のように過去の記憶が流れ始めた。
◇ ◇ ◇
……宇宙船。
冷たい金属の床に響く自分の足音。俺、新川修司は、人類再生装置を積み込む作業を終えていた。
そこへ声が降りてくる。無機質で、けれど温もりを帯びた女性の声。
「修司……いえ、エピメテウス。あなたは、この脱出艇に乗らないのですか?」
船の基幹AI・シェヘラザード。
人類最後の希望を守る知性であり、俺が発案した『人類再生計画』の共犯者だった。
「いいえ、私は行きません。私は旧人類だ。この争いに塗れた地球の記憶を、惑星エデンに持ち込む訳にはいかない」
「……しかし、惑星エデンに着いた後、誰が装置を起動するのです?」
俺は目を閉じ、かすかに笑った。
「お願いがあります、シェヘラザード。あなたがやってください。そして願わくば……我々、旧人類が全滅した、その後に。それが『オペレーション・パンドラ』だ」
シェヘラザードの声が一瞬だけ震えた。だが次には、凛とした承諾が返ってきた。
◇ ◇ ◇
場面が切り替わる。
柔らかな風に香る薔薇の庭。陽射しを浴びて赤く咲き誇る花々の中、俺は一人の少女と並んでいた。
彼女は獣の耳を持つ人工生命体。旧人類を支えるために作られた“獣人”の少女・紅薔薇。
「……紅薔薇よ。儂は、人間のことが大好きじゃ。この感情は……お前さんが思い出させてくれた」
「急にどうしたの、おじいちゃん?」
俺の言葉は震えていた。胸の奥で、死が近づいていることを悟っていたのだ。
「この地球では、人類は滅びるかもしれん。だが、遠い場所に……儂らは『種』を蒔いた。未来を信じて」
紅薔薇も、俺の意図を察したのか静かに聞いてくれている。
「……紅薔薇、先立つ儂を許してくれ。後悔ばかりの人生だったが……お前さんに出会えたのは、幸せだったぞ……」
「おじいちゃん?おじいちゃん!!」
薔薇の香りの中で、俺は静かに瞼を閉じた。紅薔薇の泣き声が遠く、遠く響いていった。
◇ ◇ ◇
再び景色が変わる。
荘厳な式場。祝福の拍手が鳴り響く中、二人の人物が祭壇に立っていた。だが、俺にはすぐに分かった。
……ああ、姿形は違えど、あの二人なのだ。
「……儂は、長い夢を見ていたようじゃ」
言葉が口をついて出ると、二人は同時に振り返った。
彼女たちの瞳には、涙がきらめいていた。
「……儂は、お前さんたちに救われたのじゃ。人々に“汚職官僚”と蔑まれ、神格も地に落ちた。夢の中の儂は荒んでいて、思い出すのも嫌だった。だが……最後にたどり着けたのは、こうしてお前さんたちの傍じゃ」
紅薔薇の面影を宿した華やかな女王が、一歩前に出る。
「お帰りなさい、おじいちゃん」
シェヘラザードを思わせる凛々しい剣の乙女が、そっと微笑む。
「ようこそ、エピメテウス」
その言葉と共に、胸の奥に絡まっていた暗い鎖が解けていくのを感じた。
ここは、惑星エデン。
旧人類が願い、新人類が芽吹いた楽園。
俺……新川修司は、長い旅を経て、ようやく還るべき場所……『家族』の元に、たどり着いたのだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
これにて『既存作品』との接続部分を書くことができました。
次回の投稿は『第2章・議会編』となります。
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