【第9話】クベーラ財務大臣との対決・後編
この作品はフィクションです。
実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
また、このような政策を、
実施している国・自治体は、ありません。
クベーラの背中から無数の腕が生え出した。千手の軍神『毘沙門天』の化身。幾百もの武器を振るい、アルテミスへと襲い掛かる。
「ぐっ……!」
剣で応じるものの、数多の腕による連撃は防ぎきれず、アルテミスの身体に血が滲む。正義の女騎士が、追い詰められていく。
俺は、たまらずに叫ぶ!
「おい、アルテミス!あんたまで、クベーラと戦うことはないんだ!……『勉強会』は、俺の『前世』の精算なんだ。あんたが傷付いてまで、俺の味方をする必要はないんだ!」
しかし、女騎士は軍神から目をそらさずに、俺に応える。
「……確かに、あなたは碌な『政策』を行ってこなかった。しかし、私は『事務シティ』を通じて思ったのです。我らの『忠誠』は王のために、我らの『献身』は民のために!」
ふらふらになりながら、クベーラに立ち向かう。
「あなたの『勉強会』は、間違っていなかった、と!!」
その言葉は、クベーラに明確な立場を示すものだった。
一瞬、クベーラは驚くが、不敵な笑い声を上げる。
「……ふふふ。残念です、アルテミス。ならば、アラカワと共に死んでもらいます!!」
クベーラの殺気が、逆らう者の命を刈り取らんと渦巻く!……その時!
「女神『サラスヴァティ』よ!清らかなる川の流れにより、かの者を癒したまえ!」
涼やかな声が響いた。光の奔流が走り、アルテミスの傷が瞬く間に癒えていく。
「……サラ?」
思わず声を漏らした俺の視界に、見知った秘書の姿が映る。
「なぜここに!?」
サラは静かに答えた。
「宰相さん。私は見ていました。あなたが官僚を集めて『勉強会』を開き、考える力を育てようとしているのを……そんな宰相さんは、素晴らしい指導者だと思いました!」
クベーラが驚愕に目を見開く。
「サラ……君もアラカワの側に立つというのか!?彼は、国家の秩序を崩壊させかけたのだぞ!!」
サラは、クベーラを真正面に捉えて見つめる。いつものおとおどした様子はない。
「……確かに、そうかもしれません」
サラは、凛として言い返した。
「ですが、宰相さんの『悪政』に疑問を抱かず、従ってきたのは、私たち官僚です。ならば、考える力を取り戻すことが必要なのです!そのための『勉強会』は、間違ってなどない!!」
クベーラの額に、汗がにじむ。
「サラ。まさか君まで、私に歯向かうとは……!」
アルテミスが剣を再び握り直す。
「義の剣は折れぬ。清流に癒された我が身、再び立ち上がるのみ!」
サラが、弦楽器を奏でる……あれは、ヴィーナ?
その音色は、アルテミスの足取りを軽くし、玉座の間に響く。
二柱の権能が織りなす連携が、クベーラの千手を次々と打ち払う。
俺は呆気にとられていた。
(……サラ。お前、『サラスヴァティ』の権能を持ってることを最終章まで明かさないとか……早く言えよな)
「ば、馬鹿な! この私が、押されるだと……!?」
最後の一撃。アルテミスの剣が三叉槍を弾き飛ばし、サラのヴィーナの音色がクベーラを包み込む。
「ぐはっ!」
クベーラは、歯噛みしながら倒れ込んだ。
血の匂いと静寂が広がる玉座の間に、クベーラが微笑みながら口を開く。
「……国家のために死ねるのなら、本望です。アラカワ宰相、私の血は『王国』の新たな歴史の礎になるのですね?……ふふふ……あの世で、あなたの報告を楽しみにしていますよ……」
俺はその場に膝をつき、血まみれのクベーラを見下ろしながら、ゆっくりと首を横に振る。
「違う。違うんだ、クベーラ財務大臣!あんたは……こう言ったら語弊があるかも知れないが……『前世』の俺なんだ!」
その言葉に、一瞬、クベーラの瞳がわずかに揺れる。
「俺もかつては、国家の命令に従い、正しい手続きに従って、淡々と業務をこなすことこそが“正義”だと信じていた」
国のため、省庁のために尽くすことが『官僚』のあるべき姿だと考えていた。
「でもな、それじゃダメだったんだ」
その結果、目の前で行われている不正から目を逸らし、それが『普通』になっていった。
「国ってのは、権力や法、制度のことじゃない。そこに生きて、泣いて、笑って、悩んでる……人間のことなんだよ。それを忘れて、“目の前の仕事”ばかり見てた俺は……天罰を受けた」
そうだ!きっと上司や政治家だけが悪かったんではない。それを正す『勇気』を、俺が持てなかったんだ!
「だから俺は……あんたには、同じ轍を踏んでほしくない!!」
俺は、泣いていた。『前世』も『今世』も、俺は間違い続けた。
クベーラは沈黙し、やがて息を整えながら、かすれた声で問う。
「……では、私は……これから、どうすれば……」
俺は涙をぬぐって、にやりと笑う。
「知らんさ。でも、財務大臣は辞職してもらう」
サラとアルテミスは、俺に目を向ける。
「……その代わり、議会の議員選挙に出てみるってのは、どうだ?あんたの“正しさ”を、民意の中で問い直すんだ」
クベーラは、しばし沈黙した後、小さく吹き出し。
「ふふふ……宰相閣下は……本当に、人が悪い……」
静かに、しかし、どこか穏やかな表情で目を閉じるのだった。
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