【第8話】クベーラ財務大臣との対決・前編
この作品はフィクションです。
実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
また、このような政策を、
実施している国・自治体は、ありません。
「……アラカワ宰相。あなたは禁忌を犯しました」
低く、しかし確信に満ちた声が王宮の広間に響いた。
振り向けば、銀の眼鏡に背広をまとった男……財務局の長、クベーラ財務大臣が玉座の間に姿を現した。
「クベーラ……あんたか」
重苦しい沈黙が広がる。官僚たちが息を呑み、俺の顔と財務大臣の顔を交互に見比べていた。
「……確かに勤務中にゲームをしているのは、問題だわな。ただ、これは研修で……」
俺は軽口を叩くことで、空気を和らげようとした。だが、クベーラの瞳は冷え切っていた。
「それを問題にしているのではありません!」
怒声が広間を震わせる。
「あなたは官僚たちに“思想”を持つことを許した!それは、国家への叛逆なのです!」
……なるほどな。
こいつの言い分は、こうだ。報告も提案も共有も、ただ上からの命令を受けるだけの歯車であれば不要。だが俺は、それを打ち破った。
“考える官僚”を生んでしまった。
「で、どうする?力で俺をねじ伏せるか?」
俺は挑発気味に笑った。
「『クベーラ』神とは、それほどの武芸を文民である、あんたに与えてくれるのか?」
すると、クベーラは口元を歪めた。
「……ふふふ。見くびってもらっては困りますね」
その身体が、みるみるうちに膨れ上がっていく。
筋肉が盛り上がり、衣装が軋む。財務卿の周囲に圧倒的な覇気が生まれ、官僚たちは慌てて後ずさった。
「『クベーラ』は富と財の神。しかし、彼の信仰の旅は、その権能を鍛えたのです。極東の島国では『毘沙門天』と名を変え……『無敵の軍神』となった!!」
次の瞬間、光が弾けた。
クベーラの手に三叉の槍が現れる。その一振りだけで、広間に戦場の匂いが広がった。
「……へっ、だからどうした!」
俺は歯を食いしばる。
「俺にもあるんだよ。地球人類最後の英霊……『アラカワ』の権能がな!」
俺は権能の覇気を滾らせる。だが、
「アラカワ宰相、あなたの知略は認めましょう。しかし……」
クベーラの声が轟く。
「『アラカワ』とは、せいぜい優れた官僚の権能にすぎない!ハッタリだけで、軍神と化した私を止められるかな!!」
三叉槍が振り上げられる。
ただの予備動作でさえ、官僚たちは悲鳴を上げ、壁際まで吹き飛ばされる。
……やばい。あれを真正面から受ければ、俺は粉微塵だ。
「私が、忠誠を捧げる『王国』のために……死んでください、アラカワァァァ!!!」
三叉の槍が振り下ろされる。
迫り来る殺意。
俺は反射的に目を閉じ、死の瞬間を覚悟した。
ギィーーーン!!
甲高い金属音が響き渡る。
目を開ければ、俺の目前でクベーラの槍が止められていた。
「……っ!?」
クベーラの瞳が驚愕に揺れる。
その槍を受け止めていたのは、一人の女騎士。
銀の鎧を纏い、剣を掲げる姿……アルテミスだ。
「義によって助太刀いたします」
彼女の声は凛として響く。
「クベーラ財務大臣。王宮での叛逆行為、このアルテミスが看過するわけには参りません!」
俺は言葉を失った。
アルテミス。あの正義に真っ直ぐな剣が、今、この瞬間に俺を守っている。
三叉槍と剣が拮抗し、両者、間合いをとる。
アルテミスは、覇気を高めるために名乗りを上げる。
「我が名は、王国近衛騎士アルテミス!我が守護神『アルテミス』に代わり、仕置きつかまつる!」
アルテミスが剣を構えると、周囲の空気が一段と張り詰める。
「女騎士アルテミスよ。剣に生き、義に殉ずる姿は美しい。だが……」
三叉槍を振るうクベーラの肉体は、軍神の加護によって筋骨隆々に膨れ上がり、揺るぎない威圧感を放っている。
「それだけで『軍神の加護』を得た私を止められると思うな!」
火花が散る。アルテミスの剣とクベーラの槍が幾度も激突し、その都度、床石が砕け、風圧が壁を軋ませる。
俺はただ、戦場の渦に飲み込まれまいと、遠巻きに両者を見守るしかなかった。
アルテミスは軽やかに身を翻し、攻撃を受け流していく。さすが、ハーデス王に近衛騎士として認められただけはある。
……だが、その瞳には焦燥が見える。
「押されているのか?クベーラの手数が勝っている!?」
やがて、クベーラの槍がアルテミスを捕らえる!
「くっ!確かに、三叉槍を受け流したはずなのに……」
クベーラは、口の端を歪める。
「……気付きましたか。我が権能の真髄は『軍』!一人にして千軍、千の兵が我が背後に立つ。軍勢の連携は、個の技量を凌駕するのです!」
その言葉と同時に、クベーラの背中から無数の腕が生え出した。
千手の軍神『毘沙門天』の化身。幾百もの武器を振るい、アルテミスへと襲い掛かる。
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