【第7話】『事務シティ』作戦開始!
この作品はフィクションです。
実在の人物・団体・事件は、一切関係がありません。
また、このような政策を、
実施している国・自治体は、ありません。
翌朝。王宮に、妙な来訪者が現れた。
白と青のストライプのシャツを着た屈強な男。見慣れぬ制服に「佐川」と刺繍されている……どう見ても配送スタッフだ。
男は無言のまま大きな荷物を運び込み、玉座の前にどさりと置いた。
中から現れたのは、ブラウン管モニターと灰色のゲーム機、それから一枚のパッケージソフト。
……『事務シティ』。
「……古臭ぇな」
思わず独り言が漏れる。
確かに『ノアズ・アーク』に連絡を取った。だが、そのアーティファクトは、携帯電話の前身である『PHS』……のはずだ。
俺が子どもの頃には、もう『液晶テレビ』や『PS5』の時代だった。なぜわざわざ『ブラウン管テレビ』と『初代PS』なんだ?
ああ、なるほど。あの女の趣味の悪い嫌がらせか!?
……まあ良い。俺はすぐさま、官僚たちを『勉強会』に召集した。
◇ ◇ ◇
「私も臣下の端くれです。ならば『勉強会』に参加する資格はあるはずです!」
翌日、玉座の間に集まった官僚たちの中に、ひときわ目立つ姿があった。
女騎士アルテミス。あの真っ直ぐすぎる正義の剣が、ここに現れるとは。
俺を監視するためだろう。そう考えるのが自然だ……だが、拒む理由はない。
「……好きにするがいい」
やがて、ブラウン管モニターに虚構の街並みが映し出される。
『事務シティ』……住民の生活を管理し、税収を運営し、公共施設を建てて発展させていく。そんな単純なシミュレーションゲームだ。
アルテミスは、眉をひそめた。
「これは……虚構の国が再現されているのですか? そんな子ども騙しなど、実際の国を預かる我らにとって、学ぶものはないでしょう!」
一理ある。だが、俺は肩をすくめながら口を開いた。
「逆に考えてみろ。子ども騙しのゲームすら攻略できない者に、国を預けておくわけにいかないのではないか?」
その言葉を挑発と受け取ったアルテミスの目が、ぎらりと光る。
アルテミスは無言でコントローラーを握り、画面に向き合った。
俺は官僚たちにミッションを提示した。
1. 異変があったら必ず報告すること。報告には1ポイントを贈呈。
2. 改善策を提案すること。どんな案でも1ポイント。
3. 結果を共有すること。これは競争ではなく、攻略法を模索する過程だ。有力な案には、さらに1ポイント。
報告、提案、共有……三つの柱。
俺の声が広間に響いた瞬間、空気が変わった。
「ここ、財政が赤字ですよ!」
「なら公共投資を一時的に削減してはどうか?」
「教育予算は維持すべきです。住民の不満が高まります!」
ゲーム画面を前に、官僚たちが自然と語り合う。
部署の垣根を超えて、意見を出し合い、報告し合い、結果を共有する。
……そうだ。これこそが俺が欲しかったものだ。
『事なかれ主義』に塗れていた官僚たちが、ついに“自走”を始めたのだ。
アルテミスも黙々とプレイしていた。
最初は鼻で笑っていたが、住民暴動イベントを前に本気になり、眉をひそめながら都市を再建していく姿は、どこか痛快ですらあった。
◇ ◇ ◇
このように、自然に『事務シティ』について語り合う環境を作った。
官僚の間では『報告』が徹底され、部署の垣根を超えて『提案』し、知識を『共有』する空気が生まれた。
それは『事務シティ』だけではなく、実際の業務においても影響したのだった。
だが、その熱気を遠くから見つめる影があった。
背広に身を包み、銀の眼鏡をかけた男……クベーラ財務大臣だ。
「……アラカワ宰相。あなたは禁忌を犯しました」
その声は低く、だが確実に全員の耳に届いた。
ゲームの光に照らされたクベーラの顔は、不気味なほど冷ややかだった。
俺は思わずコントローラーを握りしめる。
……禁忌、だと?
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