第4話:ルーゼン
ルーゼン視点
【お前の剣は、誰のためにある?】
夢の中、レオニクスの問いが静かに響いた。
その言葉は胸の奥に、火種のように残ったまま――
ルーゼンは、目を覚ました。
夜はまだ深く、星も月も見えない。
風がわずかに草を揺らし、冷えた湿気と土の匂いが空気に満ちている。
彼は、地に伏していた。
意識の縁をさまよいながら、瞼の裏に焼きついたレオニクスの言葉が、なお脳裏に重く残っていた。
(……あれは)
視線をわずかに動かす。
傍らに、鞘に収まった剣が静かに横たわっていた。
刃は眠り、柄は地に伏している。まるで彼自身の“意志”ごと、置き去りにされたかのように。
夢の中では確かに握っていた、剣の温もり。
だが今は、己の手から遠ざけていた。
【剣を捨てるな。自分を否定するな】
再び、レオニクスの声が脳裏に反響する。
「……っ……」
ルーゼンは微かに唇を噛み、右手を伸ばす。
土の感触を確かめるように、剣へと指先を這わせた。
鞘に触れた瞬間――ひやりとした冷たさが走る。
ただの金属のはずなのに、その感触はなぜか、心の奥にまで響いてくるようだった。
(俺は、まだ……答えていない)
ただ、それだけは確かだった。
「動かないでください」
静かな声とともに、肩にそっとぬくもりが触れる。
エリス。彼のすぐ傍に座り、淡く微笑んでいた。
「こんな簡単に倒れてしまうなんて……ふふ、やっぱり貴方は、“まだ”人間ですね」
いつもの柔らかな口調のまま。
けれど、その瞳は冗談とも本気ともつかない光を湛えながら、彼の内側を静かに観察していた。
ルーゼンはわずかに眉をひそめ、目を逸らす。
口を開きかけたが、反論するだけの力は、もう残っていなかった。
「……悪かったな」
それだけを呟き、息を吐く。
それ以上は何も言わず、疲労と違和感を押し込めるように、静かに目を閉じた。
「無理をしないでくださいね。……貴方が動けなくなってしまうと、私、どうしていいか分からなくなっちゃいますから」
その声音は優しかった。
従者としての気遣いを纏いながらも、その奥に潜む“別の何か”が、かすかに滲んでいた。
ルーゼンは、それに気づかないまま、夜の静けさに身を預けていく。
鞘に眠る剣。
それは、今の自分にはあまりにも重い。
けれど、二度と手にしないほど遠くもなかった。
そっと、指先だけで柄に触れる。
(まだ握れない。だが……まだ手放してはいない)
その実感が、胸の奥へと、じわじわと染み込んでいく。
【お前の剣は、誰のためにある?】
あの問いは、まだ終わっていない。
答えは、いまだ見えない。
だが、それを探し続けることこそが、今の自分にできる唯一の道だった。
「……剣は……まだ、ここにある」
呟いた声は、風に溶けて、夜の中へと消えていく。
そして彼は、そっと目を閉じた。
剣に触れたまま、深い静寂へと身を委ねながら――
星なき夜の下で、問いの先にある“答え”を、ただ静かに、待ち続けていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
一応、ダークファンタジーてきな?感じで書いてますがどうでしょう?
この後の展開伏線回収ルーゼンがなぜ今にいたるのか、エリスはなぜルーゼンと共にしてるのか…謎謎だらけになってしまってます(汗
読みにくい小説(小説と言える出来栄えか怪し…)になってしまってますが今後も温かい目で読んでください!
※この作品は【夜・深夜】更新しています。
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光と闇、信仰と裏切り。
崩れゆく世界。
これは、運命に抗う者たちの物語です。
救いは、ただ祈ることで手に入るのか。
それとも――誰かの絶望の上に築かれるものなのか。
どうか、あなたの心に何かが残りますように。
それではまた暇な時にでわでわ!