表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星深奏界〜星に夢見る少女と異形の騎士は何を守る〜  作者: 赤っ恥のShazara
第一章《沈黙の森にて》
3/55

エリス:第1話

エリス視点です!

夜の森は、静かだった。


地に染み込んだ血の匂い。空気に焼き付いた魔力の残滓。

ほんの数刻前、この場所で交わされた戦いの余韻が、夜風にまぎれて漂っている。


エリスは一本の倒木に腰を下ろし、背筋を伸ばして整った呼吸を繰り返していた。

視線の先には、焚き火の明かりに照らされた男の背――


ルーゼン。

星の力を持ちながら、今はその調律を失った男。


さきほどの戦いで彼が振るったのは、かつて拒んだはずの“闇の魔法”。

星霊の輝きを封じたまま、ただ無言で敵を斬り捨てていくその姿は、あまりにも静かで、そしてどこか脆く見えた。


(……そのままで、いい)


星を失い、闇に近づいていく。

その姿を見届けられるなら、それだけでいい。

彼が一線を越え、何かを失っていくその瞬間を――エリスは傍で見ていたかった。


 


焚き火の炎が、ゆらりと揺れる。


だが、次の瞬間――その火が不自然なほどに歪み、一瞬だけ、光が鈍く濁った。


「……」


エリスは静かに目を閉じた。

わずかに、自身の内側から“気配”が滲み出たのを感じ取る。


闇よりも深い気配。


それは、意図せず漏れ出すもの。

制御しようとすればするほど滲み出し、無意識のうちに世界の輪郭を歪ませてしまう。

“器”である自分の本質を、エリスは誰より理解していた。


ルーゼンが、小さく振り返る。


「……今、何かが揺れたな」


「気のせいじゃないですか? 夜風が、ちょっと冷たくなっただけですよ」


エリスは穏やかに微笑んだ。

けれどその内側では、“もっと深く滲んでほしい”という静かな欲望が、波紋のように広がっていた。


彼はすぐに視線を焚き火へ戻した。

だが、そのささやかな違和感は、確かに彼の記憶に残ったはずだ。


(まだ微細な気配……でも、気づかれた)


ルーゼンの中の“変化”に、エリスの中の闇が呼応し始めている。

それは単なる魔力ではない。力に宿る意思――感情の振動。

それが共鳴し始めたとき、世界は少しずつ、その形を変えていく。


 


「……エリス、お前は何者なんだ」


焚き火の向こうから、ルーゼンが問いかける。

その声に、警戒よりもわずかな“探る温度”が混じっていた。


「私は、ただの従者です。あなたの隣にいることを選んだ、普通の女の子ですよ」


「普通の女の子は、闇の戦場で笑っていられない」


「じゃあ、“ちょっと変わった女の子”ってことで」


エリスはくすりと笑い、そっと枝を火へくべた。

ぱちり、と小さな音を立てて、炎が揺れた。


 


「あの……ルーゼン様」


「なんだ」


「もし、世界中があなたの敵になったら……それでも戦いますか?」


「……妙なことを訊くな」


「仮の話です。すべてがあなたを拒んでも、それでもあなたは、進みますか?」


ルーゼンは答えなかった。

焚き火を見つめるその目に、かすかな揺らぎが浮かぶ。


エリスは、その変化を見逃さない。


(そう……その感情。その揺れが、私の……)


自分の言葉が、彼の中に何かを生んでいる。

それが罪でも怒りでも、悲しみでもいい。

どんな感情でも――彼を“境界の先”へと導くものならば。


 


「……眠れ。もう遅い」


「あなたも眠らないんでしょう? なら、少しだけ黙って、隣にいさせてください」


エリスはそっと彼の隣へと身を寄せた。

わずかに距離を保ちながらも、“隣にいる”という位置だけは崩さずに。


 


その夜、星は姿を見せなかった。

雲に隠れ、月さえも沈黙していた。


けれど、その暗闇の中で――

ルーゼンの傍にいたのは、星を待つ者ではない。

彼が闇とどう向き合うのかを、静かに“観測する”者だった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


第1話:〇〇がルーゼン、〇〇:第1話がエリス


※この作品は【夜・深夜】更新しています。

ブックマーク・評価・ご感想など、何かしらの形で応援していただけると励みになります!


光と闇、信仰と裏切り。

崩れゆく世界。

これは、運命に抗う者たちの物語です。


救いは、ただ祈ることで手に入るのか。

それとも――誰かの絶望の上に築かれるものなのか。


どうか、あなたの心に何かが残りますように。


それではまた暇な時にでわでわ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ