第11話:ルーゼン・エリス
ルーゼン・エリス視点!
互いの歩みが、草原のただなかで交錯する。
光の残滓が空を淡く照らし、風はすでに弱まっていた。焚き火の煙が細く立ち上る中、足音だけが静けさを縫って近づいてくる。
巡礼者たち――白の外套に身を包み、胸元に銀の徽章を灯す五つの影が、草を分けてゆっくりと歩み寄ってきた。
先頭を行く副司祭の少年が、やや早足で前に出る。そのすぐ後ろを、落ち着いた歩幅の司祭が続き、さらに三人の騎士が間隔を保ちながら背後を守っていた。動きには疲労がにじんでいるものの、確かな警戒と気品があった。
俺は剣から手を離し、視線だけで彼らを迎えた。
エリスも隣で小さく頷く。その横顔にはかすかに笑みが浮かんでいたが――その奥にあるものを、俺はまだ知りきれない。
「……旅の方々、でしたね」
最初に口を開いたのは、副司祭の少年だった。疲れを帯びながらも、礼を崩さぬ声音。
俺は返事をせず、目で応じた。
静かな間が流れ――それを埋めたのは、司祭の落ち着いた声だった。
「……森の方で、少し問題がありまして。ご迷惑をおかけしていたなら、どうかお許しください」
エリスが一歩前へ出る。
「いえ。ちょうど休憩を取っていたところです。そちらの皆さんこそ、大丈夫ですか?」
その声は穏やかだったが、その奥底に宿る“観測”の気配を、俺は感じ取っていた。
副司祭がわずかに笑みを浮かべ、頭を下げる。
「……ご心配、ありがとうございます。多少の疲れはありますが、無事です。……少し、想定外のことがあっただけで」
言葉の奥に、かすかな歪み。
その瞬間、背後に控える三人の騎士たちが、こちらに視線を向けた。構えではない。ただ、静かな警戒と、情報を読み取ろうとする観察。
俺は名を名乗らなかった。
この場では、言葉より“在り方”で示すべきだと考えたからだ。
エリスが再び口を開く。
「道に迷ったわけではないんですよね?」
「はい。地図はあります。ただ……少し遠回りをして、村を通るはずだったのですが」
司祭が言葉を濁しながら答えると、エリスは目を逸らさずに言った。
「……村は、もうなかったみたいですね」
彼女の声は冷静で、どこか確信に満ちていた。
張り詰める空気の中、俺はただ黙して、その場に立っていた。
この再会が、光となるのか、影となるのか――それを測る術は、まだなかった。
「……やはり、そうでしたか」
そう返したのは、副司祭の少年――ジニアだった。
穏やかな声音の奥に、どこか重さがにじんでいた。
「私たちは、あの場所の“状況”を確認するために立ち寄ったんです。……星霊教会としての、任務の一環で」
ジニアの視線が、少しだけ伏せられる。悔やむようでもあり、何かを押し殺すようでもあった。
「“闇の力”に関する、兆しが……いくつか報告されていましたので」
その言葉に、俺の眉がわずかに動く。
(闇の兆し、か――)
けれど俺は口を開かず、代わりにエリスが静かに訊ねた。
「……兆し、というのは?」
ジニアは少し言葉を選び、努めて柔らかく答えた。
「直接的な魔力の発生ではなく、“地脈の揺れ”のようなものです。……星の流れに反する、微かな乱れ。放っておけば広がる恐れがあると、そう判断されて」
その横で、司祭――ネヴィルは沈黙を保っていた。
だがその沈黙は無関心ではない。多くを“見てきた”者の、深い静けさだった。
俺は言葉を持たず、ただその説明を受け止める。
(兆し。拡がる恐れ。……ならば、教会の動きは、まだ“前触れ”にすぎない)
ジニアがやや姿勢を正し、問い返してきた。
「お二人は、この先も南へ……?」
その問いには、明確な真意があった。
単なる進路の確認ではない。“何を知っているのか”“どこへ向かおうとしているのか”――それを測ろうとする視線。
俺は、ほんのわずか間を置きながら、応じた。
「……あぁ、南に行く。ただ村による予定はない……」
その答えに、ジニアは目を伏せ、小さく頷く。
その動きがどこか安堵に近かったのは、気のせいだっただろうか。
その横で、エリスが一歩、俺の横に歩み寄る。
「私たちは……ただ、進むべき道を歩いているだけです」
その声はまっすぐだった。飾りも、偽りもない。
巡礼者たちはそれ以上、何も問いかけなかった。互いに視線を交わすだけ。
疲労の色を帯びたその表情に、敵意も、明確な警戒もなかった。
だが、それでもなお――
交差したまなざしの奥で、境界は静かに揺らいでいた。
その揺らぎが、この先の何を導くのか。
それを知るには、まだ――少しだけ、夜が足りなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
※この作品は【夜・深夜】更新しています。
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光と闇、信仰と裏切り。
崩れゆく世界。
これは、運命に抗う者たちの物語です。
救いは、ただ祈ることで手に入るのか。
それとも――誰かの絶望の上に築かれるものなのか。
どうか、あなたの心に何かが残りますように。
それではまた暇な時にでわでわ!




