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星深奏界〜星に夢見る少女と異形の騎士は何を守る〜  作者: 赤っ恥のShazara
第一章《沈黙の森にて》
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{星霊教会の巡礼者たちー撤退}

星霊教会視点!

「撤退!」


ネヴィルの命令が走る。


それは、決して敗北を意味するものではなかった。

だが、この空間――“光を拒絶する領域”において、彼らが果たすべき目的は変わった。


ここで“勝つ”ことではなく、

“生き延びて報せる”こと。闇がこの地に宿ったという、揺るぎない事実を。


「全員、私の位置まで下がれ! 陣形は崩すな!」


サヴィンが即座に光魔法を展開し、仲間たちを包むように防御の光膜を張る。

歪みかけた空間の中で、その光はかろうじて魔物の爪を弾いた。


ジニアは攻撃魔法を中断し、代わりに回復の光を味方へと送る。

その光は弱まりつつも、痛みと疲労を一時的に和らげるには十分だった。


セフィナは斜めに包囲網を斬り裂き、自ら囮となって退路を切り開く。


「っ……来なさいよ……!」


白銀の刃が黒い肉を裂く。

だが返ってくるのは血ではなく、瘴気の噴出だった。


霧が衣に染みこむたび、視界が鈍く曇っていく。

皮膚が冷え、魔力の通りが明らかに鈍くなる。


「毒じゃない……魔法そのものを腐食させてる……!」


セフィナが震える息で叫ぶ。


「エドマス!」


「任せろ!」


エドマスが横から踏み込み、巨大な槍の一撃で魔物と瘴気をまとめて吹き飛ばす。


「ジニア、中心を保て! 光魔法を切らすな!」


「はい――っ!」


ジニアが震える指先を前に翳し、淡い光の輪を走らせる。

歪んだ空間の縁をなぞるように、かろうじて護りの光膜が結ばれていく――

まるで崩れる世界に、指で線を引くかのように。


そのとき――


礼拝堂の奥に佇んでいた“異形”の影が、動いた。

否、“揺らいだ”。


次の瞬間、空間全体が軋む。


まるで礼拝堂そのものが、異形の“心臓”になったかのように。

重い闇の波動が脈を打ち、空気が鼓動のように震えた。


「くっ……っ、意識が……!」


ジニアの脚がぐらりと揺れる。

目の奥に、焼きつくような感覚――


(“視られてる”……?)


目を持たぬ“異形”の奥底から、確かに意志が突き刺さってくる。

感情でも敵意でもない。ただ、純粋な“観測”を目的とするまなざし。


(このままじゃ、意識ごと呑まれる……!)


だが、背後から伸びた手がジニアの腕を掴んだ。


「下がれ!」


サヴィンの声とともに、剣戟の音が交差し、退路が開かれる。


その中心で、ネヴィルはなおも冷静に礼拝堂の奥を見つめていた。


「……あれは、“壊れていない”。いや――“壊れきれなかった”がゆえに、なお意志を宿したまま――光を拒絶している」


人の形を模しながら、人ではない“何か”。

その歪んだ顔の奥に、確かに“目”があった。目のない、意志の穴――


それは、かつて星霊教会に属した者たちの目に、どこか似ていた。


信仰と秩序と希望――

それらすべてを知ったうえで、なお拒んだ、静かな否定の目。


(……あれは、“自ら選んで”闇に沈んだ者だ)


背筋をかすかに冷たいものが走った。


「全員、撤退完了位置へ。追撃が来るぞ!」


サヴィンの声が響く。

振り返れば、魔物たちの包囲が再び狭まりつつあった。


異形の命令が、はっきりと“追撃”へと切り替わったのだ。


獣たちの脚が地を蹴り、瓦礫の音が爆ぜる――


その刹那、


「っ……っ!」


セフィナが地を蹴り、魔物の顎を横薙ぎに斬り飛ばす。

瘴気が爆ぜた空間に、ジニアが光魔法を再展開する。


歪んだ空間に一本の道筋を描くように、護りの光が走る。


「今です!」


ネヴィルの声が重なった。


「――走れ!」


五人の身体が、一斉に影の縁から跳び出した。


斜陽が残る草原の縁へ――ようやく辿り着く。

空気が変わる。闇の濃度が、わずかに薄れる。


だが、それでも彼らは止まらなかった。

そのまま丘の影へと、駆け抜けていく。



礼拝堂の奥、崩れかけた祭壇の影。

その“目を持たぬもの”は、ひとつも動かずに、彼らの背を見つめ続けていた。


やがて村は静寂に沈む――


けれど、それは“癒し”ではなく、“準備”の沈黙。

嵐の前に、世界そのものが呼吸を潜めるかのような、恐ろしい静けさだった。



夜が明けるころ、巡礼者たちは仮の野営地を離れ、廃墟からさらに遠ざかるように南東の丘陵地帯を歩いていた。


足取りは慎重だったが、誰一人として迷いはなかった。

闇の残滓はまだ風に漂っている――それでも、彼らは前へ進むしかなかった。


「……この辺りまで来れば、ようやく加護が戻ってきた気がします」


ジニアが自らの星霊印に手を重ねながら言った。

光の流れが、微かに感じ取れる。あの異形の結界の支配から、ようやく解き放たれた証だった。


「それだけ、あの村が異常だったということだ」


ネヴィルは、周囲の気配を細かく探るように歩きながら、落ち着いた声で応じる。


「魔物の統率。領域の構築。光の拒絶。どれも自然に発生する現象じゃない。あれは……“意思が作った空間”だ」


「でも……なぜ、私たちを“狩らなかった”のでしょうか」


セフィナの問いに、すぐに答える者はいなかった。


「異形は、意志を持っていた。ならば、ただの敵対ではない可能性もある。……接触を“見計らっていた”とも取れる」


サヴィンが理性的に言う。


「いずれにしても、帰還後の報告は重要になるな。あれは、光の加護では対処しきれない対象だ」


ネヴィルが頷いた、ちょうどそのときだった。


丘の斜面を越えた先――草の背が低くなった開けた地形の向こうに、微かな人影が見えた。


「……誰かがいる」


エドマスが低く告げ、全員が即座に警戒態勢を取る。


その気配は、魔でも異形でもなかった。

だが確かに、“ただの旅人”でもなかった。


風が吹く。草が揺れ、人影がゆっくりと輪郭を現す。


「この感覚……まさか、あの二人か」


サヴィンが言った。


「草原で出会った、黒衣の剣士と金髪の少女……」


ジニアの声が揺れる。遠い記憶が呼び起こされるように。


ネヴィルの目が細くなる。


「……偶然、ではあるまい」


彼は静かに言った。


「この方角に向かっていたのが、我々だけではなかったということ。だが、廃村に立ち寄る予定ではなかったはずだ」


「道を逸れた先に、また交わる……これも、導きのうちかしら」


セフィナが息を吐くように笑った。だが、その声音にはどこか緊張が混じっていた。


「我々と同じく、“何か”に導かれてここに来た可能性は高い。……会っておく必要があるだろう」


ネヴィルがそう言った、その瞬間――


遠く、草の向こうで人影がゆるやかにこちらを振り返った。


風が止んだ。


空気がわずかに張り詰める。


――そこに立っていたのは、黒衣の男と、金髪の少女だった。


名も、素性も正確にはわからない。

だが、その眼差しの奥には、確かに交錯する“何か”が存在していた。


まるで、ここに至る道筋を――すべて観測されていたかのように。


彼らは偶然に出会ったのではない。

必然が、草原の一点に、二つの軌跡を重ね合わせたのだ。


廃墟の闇が問いを残したのならば、

この出会いは、その答えの始まりとなるだろう。


――再会の兆しが、静かに、しかし確かに始まりを告げていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


※この作品は【夜・深夜】更新しています。

ブックマーク・評価・ご感想など、何かしらの形で応援していただけると励みになります!


光と闇、信仰と裏切り。

崩れゆく世界。

これは、運命に抗う者たちの物語です。


救いは、ただ祈ることで手に入るのか。

それとも――誰かの絶望の上に築かれるものなのか。


どうか、あなたの心に何かが残りますように。

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