表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星深奏界〜星に夢見る少女と異形の騎士は何を守る〜  作者: 赤っ恥のShazara
第一章《沈黙の森にて》
2/55

第1話:ルーゼン

ルーゼン視点

夜の風が、森の奥深くから不穏な気配を運んでくる。


かつて王国があった地の果て。星の光すら届かぬ深い森の中を、一人の男が歩いていた。

重い足取りが、枯れ葉の絨毯に淡い音を残す。王国が滅んだ今、小道も消え、獣さえも寄りつかぬ森。

そこにあるのは、沈黙と、遠い昔に死に絶えたものの匂いだけだった。


男――ルーゼンはふと立ち止まり、右手の甲を見下ろした。


そこに淡く浮かぶのは、“星痕(せいこん)”。かつて彼が持っていた、星天魔法の調律者としての力の痕跡だ。


だが今、その光は沈黙し、何も応えようとはしない。


「……まだ目を覚ます気はないか」


呟いた声は、夜の空気に溶けていった。

その力は、過去と共に砕け散ったのだ。


その時だった。森の奥から、草を踏みしめる微かな音が聞こえた。だがそれは確かに、こちらへと近づいてくる。


ルーゼンは即座に左腰へ手を伸ばし、黒鉄の剣を抜き放つ。

刃が夜を裂き、光なき冷たい輝きを放った。


姿を現したのは、人の形をかろうじて留めた異形――

かつて人間だった者が、絶望と闇に呑まれて変じた“残骸”。


影刃・朧裂き(えいじん・おぼろざき)


影が蠢き、地面から黒い刃が伸びて異形を両断する。

黒い血が焼けるように空気を歪ませ、背後の木々にまで焦げ跡を残した。


間を置かず、さらに二体、三体と、森の奥から這い出してくる。


ルーゼンは静かに息を吐き、剣を構えたまま、左手に再び漆黒の魔力を集める。


それは星の力ではない。

彼の内に眠る、“闇”――かつて拒んだはずの力。


だが今の彼は、それを躊躇なく振るう。


「……これが、今の俺に残されたものか」


剣を振るい、闇の魔力を刃に重ねる。

黒き閃きが異形の首を断ち、次の一体もまた一閃で切り裂かれた。


正確無比で、隙のない動き。

だがその表情に激情はなく、ただ空虚な意志だけが宿っていた。


遠く、木陰からその様子を見つめる者がいた。


白い外套に身を包んだ少女――エリス。

彼女は微笑みを浮かべながら、その戦いを静かに見守っていた。


その瞳の奥には、かすかな熱と、奇妙な期待が潜んでいる。


(今はまだ……けれど、きっといつか)


ルーゼンが感情に呑まれ、星でも闇でもない、“己自身”の奥底から何かを引き出す瞬間。

彼女は、その時を心から望んでいた。


最後の一体を斬り伏せたとき、ルーゼンはようやく剣を下ろし、肩で息をついた。

闇の魔力が静かに霧散し、ただ風の音が森に戻ってくる。


「……終わりか」


その背後から、軽やかな足音が近づいてきた。


「やっぱり、あなたは強いですね。星がなくても、怖いくらいに」


エリスだった。無傷のまま、軽やかに笑いながら歩み寄ってくる。


「……いつからいた」


「さっき追いつきました。援護なんて、要らないと思って」


「……一人で十分なはずだったがな」


「でも、独りじゃきっと疲れますよ。誰かが隣にいた方が……静かすぎないし」


その言葉に、ルーゼンはわずかに視線を逸らした。


「お前がなぜ俺に付きまとうのか、まだわからん」


「私も、自分でもよく分かりません。でも――」


エリスは笑みを浮かべ、ほんの少し目を伏せた。


「あなたといると、なぜか落ち着くんです」


その言葉には、どこか本音のような響きと、何かを隠す気配があった。


ルーゼンはそれ以上は何も言わず、再び歩き出す。

その背を、エリスが静かに追いかけていく。


その夜、星は姿を見せなかった。

雲に覆われ、月さえも沈黙していた。


だが、深い闇の中で。

彼はその闇と共に歩みを進め、彼女はその隣に、ただ静かに寄り添っていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


ふードキドキっ


※この作品は【夜・深夜】更新しています。

ブックマーク・評価・ご感想など、何かしらの形で応援していただけると励みになります!


光と闇、信仰と裏切り。

崩れゆく世界。

これは、運命に抗う者たちの物語です。


救いは、ただ祈ることで手に入るのか。

それとも――誰かの絶望の上に築かれるものなのか。


どうか、あなたの心に何かが残りますように。


それではまた暇な時にでわでわ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ