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星深奏界〜星に夢見る少女と異形の騎士は何を守る〜  作者: 赤っ恥のShazara
第一章《沈黙の森にて》
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{星霊教会の巡礼者たちー戦闘}

星霊教会視点!

「来るぞ!」


エドマスの声と同時に、最初の一体が跳躍した。

空中でしなやかに弧を描くその身には、獣らしい荒々しさはなかった。

狙いは正確で、軌道は冷酷。まるで訓練された兵のような動きだった。


「――斬る!」


セフィナが即座に反応する。

踏み込み、抜刀、そして流れるような斬撃が魔物の頸を断ち切った。


黒い霧が噴き出し、空間がさらに濁る。


「……血じゃない。霧を放って……周囲の魔力を濁らせてる」


ジニアが思わず後退する。


「闇封じの魔法を……起動が遅れる! 魔法が発動しない!」


その報告に、ネヴィルが小さく唸る。


「この空間そのものが“光”を拒絶している。光魔法を歪める波長が、既にこの村を満たしているのだ」


「じゃあ……このまま魔法なしで戦うってこと!?」


セフィナが苛立ちをあらわにし、再び迫る魔物を蹴り返す。


「いや――完全に封じられているわけではない。“中心”に近づくほど、拒絶の影響が強くなる」


サヴィンが冷静に周囲を観察しながら言った。


「あの礼拝堂……あそこが結界の起点。異形がいる場所だ」


次々に迫る魔物たち。


だが、その動きには明らかな“群れ”としての統制があった。

個体での突撃はなく、前後左右の間合いを保ちながら、五人を囲い込んでくる。


まるで――誰かに“操られて”いるかのように。


「……完全に、狙われてる」


セフィナが口元だけで笑う。


「こいつら、“何か”に命令されてる。本能じゃない。これは――意志による戦術」


ネヴィルが低く言った。


「魔物はただの獣だ。だが異形は……かつて人であったがゆえに、記憶を持ち、秩序を持ち、戦術を理解する。……それが、“理を踏み外した知性”だ」


まさにその通りだった。


魔物たちは五人を、村の中央――礼拝堂前の広場へと追い詰めていく。


五人は互いに背を合わせ、陣を組んだ。


目の前には、牙を剥いた魔物の群れ。

そのさらに奥、崩れかけた礼拝堂の扉の影――


そこには、まだ形を見せぬ“異形”の気配が、確かに潜んでいた。


朽ち果てた石の祭壇の向こう、礼拝堂の奥で、ぬらりと“影”が揺れる。


最初、それはただの濃い闇にしか見えなかった。

だが空気が軋むほどの重圧とともに、何かが“形”を取り始める。


人に似た輪郭。だが、決して“人”ではない。

左右で本数の異なる手足、地面を這うように伸びる指先、背から垂れた瘴気の帯は礼拝堂の壁を這っていた。


そして、その“顔”には――何もなかった。

目も鼻も口も溶け落ち、ただ“黒い窪み”だけがぽっかりと空いていた。


「……あれが、異形」


ジニアの喉がかすれる。


「形を保っていない……魂が崩れきっている……でも、消えていない。“存在”している……!」


「っ……ッ!」


セフィナが咄嗟に後ろへ跳ぶ。


次の瞬間――風が、一気に凍りついた。


異形の影から、奔流のように“圧”が広がる。

地を這い、空気を歪め、光を引き裂く不可視の波が、礼拝堂全体を覆っていった。


「……空間が、塗り替えられていく」


サヴィンが呟いた声は、酷く冷たかった。


「魔物たちの気配も変質しています。まるで……さっきまでとは“別物”みたいに」


事実、その通りだった。


魔物の瞳は紅から黒へと染まり、体表の瘴気は濃度を増していた。

背が伸び、脚が三本となり、肩から棘を生やす個体も出始めている。


“進化”ではない――“汚染”だった。


「異形が……魔物を媒介に、“領域”を拡げている……!」


ネヴィルの声が凍りつく。


「これは、通常の闇ではない。加護そのものを“拒む”存在が、中心に座している……!」


ジニアが震える手で魔法を展開しようとする――が。


「魔法が……通らない……」


「私も同じよ……!」


セフィナが叫ぶ。


「魔法の起点が……空間に“弾かれて”る!」


エドマスが槍を構え、突撃してきた魔物を受け止める。

だがその肉体は、重く、硬かった。まるで鉛でできた獣のように。


槍の穂先が瘴気の皮膜に突き刺さる――しかし、貫通しない。

逆に瘴気が刃を包み込み、跳ね返してくる。


「ちっ……!」


反動でエドマスの腕が痺れた。


「完全に空間を支配してる……これじゃ、魔法が届く前に潰される!」


セフィナの叫びと同時に、サヴィンの光の結界魔法が展開――しかし、瞬時に弾け飛ぶ。


光が生まれ、広がり、そして掻き消えるまでが一瞬。


まるでこの空間そのものが、光魔法を拒んでいるかのようだった。


「この空間は、“光を否定する”構造に変わっている。自然発生の闇ではない。明確な“干渉”が起きている……!」


ネヴィルが低く言い放つ。


その瞬間、異形の“顔のない顔”が、ぬるりとこちらを向いた。


何も映らぬはずの“黒い窪み”――

だが、そこには確かに“視られている”感覚があった。


ネヴィルは息を止める。


(……理解している。こちらの力、布陣、弱点――すべてを)


それは獣ではない。

“意志”で判断し、“選択”している。


異形は動かない。だが、魔物たちが次の指令を受けたように、再び動き出す。


魔物たちは新たな陣形を組み直し、包囲の輪をさらに狭めてきた。


「完全に指揮されてる……!」


セフィナが低く呻く。


「これはもう、魔物との戦いじゃない。異形との“戦術戦”よ!」


「見ろ。この動き……異形の指揮が完全に通ってる。こいつら、もう獣じゃねえ」


サヴィンの冷静な声が、緊張の中に一層の重みを与える。


「……ネヴィル司祭、判断を」


エドマスが血塗れの槍を構え直し、視線だけで問う。


ネヴィルは冷静に頷いた。


「次の波で限界だ。――撤退の準備を」


「「「了解!」」」「はい!」


三人の光誓騎士と副司祭が、即座に後退を開始する。


だが――


異形が礼拝堂の奥で、わずかに身体を揺らした。


次の波が来る。もっと強い、“何か”が。


「早く離脱しろ……!」


ネヴィルが叫ぶ。


崩れた柱の影から、また新たな魔物が姿を現す。


だがそれは、すでに“魔物”ではなかった。


異形の意志に完全に呑まれ、もはや“器”と化した存在。


星霊教会の加護――“光”が、まったく通じなかった。


「……あれは、“光の否定”そのものだ……!」


ジニアが、蒼白な顔で呟いた。


こうして――撤退戦が始まる。


異形の領域に飲み込まれかけた巡礼者たちが、

わずかな余白を縫い、脱出を試みる――


最後まで読んでいただきありがとうございます!


※この作品は【夜・深夜】更新しています。

ブックマーク・評価・ご感想など、何かしらの形で応援していただけると励みになります!


光と闇、信仰と裏切り。

崩れゆく世界。

これは、運命に抗う者たちの物語です。


救いは、ただ祈ることで手に入るのか。

それとも――誰かの絶望の上に築かれるものなのか。


どうか、あなたの心に何かが残りますように。


それではまた暇な時にでわでわ!

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