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星深奏界〜星に夢見る少女と異形の騎士は何を守る〜  作者: 赤っ恥のShazara
第一章《沈黙の森にて》
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{星霊教会の巡礼者たち}

星霊教会視点

風が草原を渡っていく。

背後に残した二人の旅人の姿は、やがて丘の陰に隠れていった。


「……随分と、緊張していたな」

最初に口を開いたのは、光誓騎士のエドマスだった。

無骨な槍を肩に担ぎ、年長の騎士らしく、常に前方に注意を払いながら言葉を漏らす。


「それはこちらの話じゃない? あの男の目……見ただけで背筋が冷えたもの」

並ぶように歩くセフィナが応じた。

小柄な体に不釣り合いな鋭さを持つ彼女は、先ほどから落ち着かない様子で、周囲の空気を見張っている。


「でも……話してみたら、穏やかな人たちでしたよ。とくに、あの女の人は」

言ったのは、福司祭のジニア。

まだ若いが、聖職者としての責任を背負う彼は、振り返ることなく小さく続けた。


「少し、拍子抜けしたかもしれません」


その声に、セフィナがわずかに口元を緩める。


「ふうん……やけに“よく見てた”みたいだけど?」


「……え?」


「その女の人。あなた、じっと見てたじゃない。顔、ちょっと赤くなってた気もするし」


「ち、違いますってセフィナさん、そういう意味じゃ……!」


慌てて両手を振るジニアに、サヴィンがくすりと笑う。


「若いっていうのは、いいものだな。ジニア、気にすることはない。誰かに心を惹かれるのは、星霊の教えに反することじゃない。自然なことだよ」


「いや、それでもですね……!」


ジニアの声が裏返り気味になったのを見て、セフィナが肩を揺らした。


「まあ、そういうことにしておくけど……あの女の人、あれでただの旅人には見えなかったわ。何か、得体の知れない感じがあったのよ」


「俺も、そう思った」

低く言ったのはエドマスだった。

槍の柄をゆるく握りながら、まっすぐ前を見据えている。


「そして、男の方も……同じく、な」


「……ネヴィル司祭」

セフィナが少しだけ口調を改める。

視線の先、先頭を歩く司祭ネヴィルは、穏やかな表情を崩さぬまま、微笑を浮かべていた。


「顔を見た時、心当たりがあったのですね?」


ネヴィルはすぐに答えず、歩を緩めてから静かに口を開く。


「星霊教会の記録にある騎士の面影を、わずかに重ねただけだ。確証はない……ただ、目に宿るものが印象に残っていてね」


その言葉に、三人の騎士はそれぞれ黙した。

ネヴィルの語る言葉は重くも軽くもなく、ただ静かに真実だけを伝えていた。


「……でも、彼は剣を抜かなかった。こちらにも手を出さなかった」

サヴィンが言う。


「ならば我々も、それに応えるべきでしょう。疑いを投げかけるのではなく、見守る姿勢を保つことが、光に仕える者の礼儀です」


「その通りです」

ネヴィルが静かに頷いた。


「光は、ただ照らすだけのものではない。時に、静かに見守るものでもある。押しつければ、それは闇と変わらぬ」


しばしの沈黙が流れる。


やがて、サヴィンがぽつりと呟いた。


「……空気は穏やかだったのに、不思議と心がざわつく。あれは……何だったんだろうな」


その声音には、言葉にしきれぬ余韻が滲んでいた。


「……うん。私も、似たような感覚を覚えました」

ジニアもまた、やわらかく頷く。

視線は遠くを見つめながらも、そこには僅かな温もりが宿っていた。


ネヴィルはそれ以上語らず、手にしていた巡礼記をそっと閉じた。

その仕草には、祈りに似た静謐さがあった。


「……行こう。我らの導きは、まだ続いている」


「「「了解」」」


三人の光誓騎士は、静かに応じた。


そして、巡礼者たちは再び歩き出す。

陽の角度は少しずつ高くなり、風が草を撫でる。


光の名のもとに――

彼らの道は、静かに、確かに伸びていった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


※この作品は【夜・深夜】更新しています。

ブックマーク・評価・ご感想など、何かしらの形で応援していただけると励みになります!


光と闇、信仰と裏切り。

崩れゆく世界。

これは、運命に抗う者たちの物語です。


救いは、ただ祈ることで手に入るのか。

それとも――誰かの絶望の上に築かれるものなのか。


どうか、あなたの心に何かが残りますように。


それではまた暇な時にでわでわ!

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