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8話

 アンナの胸の中で泣き疲れた私はそのままリュシアンの隣で眠りについた。


 目覚めると夜遅い時間でリュシアンはまだ眠ったままだった。


 ホッとしたのかぐっすり眠り頭の中はスッキリとしていた。


 リュシアンの体をむぎゅっと抱きしめた。

 ちょうど耳元にリュシアンの顔が。スースーっと寝息が聞こえてきてとても心地いい。


「可愛い……」

 思わず出た言葉。


 妊娠したと気づいた時とても怖かった。一人で産むことがとても怖かった。

 だけど出産の時に思い出した前世の記憶が私に生きる希望を与えてくれた。

 またあの幸せだった子育てができることを。

 なのに、こんな弱い母親でごめんね。

 あんな怖い思いをさせて。リュシアンの温もりに癒されているはずなのに、頭に浮かぶのは後悔ばかりで心の中で何度も謝った。


 これからどうしよう……


 とりあえず何も持たずにここに来てしまったので明日は荷物を取りに行くようにしないといけないわ。

 ソフィアの容態も気になるしセバスチャンやジョンソンとも話をしなければ。

 仕事も旦那様に引き継いではいるけどまだ私が手掛けてそのまましている仕事もあるし、自分が始めた事業の書類もあの屋敷に置いたままだし。


 窓から月明かりの空を見ながらいろいろこれからのことを考えた。


「むにゃむにゃ……かあさまぁ……」


 リュシアンが寝言で私を呼ぶ。


 夢の中では幸せそうな顔をしているので少し安心した。ここ最近はリュシアンを隠さなきゃなんて必死で思って、なかなかゆっくりそばにいてあげられなかった。


 目覚めたら二人でお散歩でもしようね。






 ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎




 目覚めてすぐにリュシアンが「おなかすいたぁ」と悲しそうにうるうると訴えてきた。


 それはそうよね、私もお腹が空いているもの。


 そう思っていると扉のノックする音が聞こえ「どうぞ」と言うと「おはようございます」と明るい声でアンナが部屋に入ってきた。


「アンナっ!おなかすいたぁ!」

 甘えるようにリュシアンが手を広げでアンナに抱っこをせがむ。


「まぁ、リュシアン坊っちゃんは赤ちゃんみたい」

 嬉しそうにリュシアンを抱っこしてお互い頬ずりしてニコニコと見つめ合う。


「お腹が空いたでしょう?リュシアン坊っちゃんの好きなオレンジジュースとパン、それからトマトのスープに苺のジャムもありますよ?」


「たべるっ!はやく、いこう」


「アンナ、私もいただくわ!」


 アンナの顔を見るだけでいろんなことを考えていたはずなのに、後でもいいかな、なんて思い、気持ちが楽になった。


 まずはしっかり食べなきゃ。

 うじうじ考えても仕方ないもの。元々離縁は考えていたけど、屋敷のみんなが大好きで別れ難かっただけ。


 昨日の分を取り戻すようにリュシアンと二人しっかり朝食を食べて二人で手を繋ぎお散歩をした。


 昨日見た馬車の景色の話をしたり、野良猫の散歩に出会して、リュシアンがキョトンとした顔が可愛かった。


「かあさま、ねこちゃん、ひとりでおさんぽしてるよ?まいごにならないの?」


「猫ちゃんは小さく見えるけどあれでも大人なの。一人でも平気なんだと思うわ」


「ふうん、ぼくよりちいさいのに?」


 リュシアンは生まれて初めて絵本ではない本物の猫を見たのでとっても不思議みたい。


「かあさま、わんわん、いる」


 指差しながらも大きな犬を見て少し後退りをして私のスカートの後ろに隠れた。


 猫は猫ちゃんなのに犬はわんわんなのは、絵本の影響。読み聞かせした絵本の言葉をそのまま覚えている、まだ言葉を直さなくてもいいかなと思ってる。

 こうして直に動物に出会えるのは町を散歩したから。普段屋敷の中の敷地を散歩するのとは違って新鮮で楽しい。



 家に帰るとセバスチャンが待っていた。


 リュシアンはアンナにお願いした。



「昨日からお世話になっています」


「いえいえ、何もありませんがゆっくりとしてください」


「ここに居ると寛ぎすぎて時間を忘れてしまうわ」


「それはよかったです」


「その笑顔は向こうで何かあったのかしら?」


「……旦那様が少し……」


「不機嫌なの?」


「はい、それとソフィア様がグズって使用人達ではどうすることも出来なくて困り果てております」


「ソフィアは熱は下がったの?」


「はい、多分、外出で興奮して熱が上がっただけだったようです。初めて遊びに連れて行ってもらったようで体が驚いたのでしょうとお医者様が仰っておりました」


「そう、よかったわ、どこも悪くなくて」


 ソフィアのことは心配していたのでホッとした。でも旦那様が不機嫌?ほんと、意味がわからないわ。


「使用人では駄目なのでソフィア様を旦那様が看病したのですが、ぐずるので旦那様は昨夜一晩眠れなかったようです」


 心配しながらセバスチャンは言ってるはずなのに、少しニヤッと笑った。


「ふふっ、たまには父親らしくしないと。全て私に押し付けていたのだから」


「そうですね、でもその言葉は私にも痛いところです。私も仕事ばかりで家庭を顧みなかった一人ですから」


「セバスチャンが?そんなふうに見えないわ」


「父親なんて子供に何をしてあげたらいいのかわからないものです。妻からの報告で今子供達が何をしているのか、どう思っているのかを知るのが精一杯ですよ」


 前世の父親達は、積極的に子育てに参加して家庭を大事にするのが当たり前だった気がする。

 でもこの世界では子育ては母親、もしくは貴族なら乳母や専属のメイドがする。私も仕事中はメイド達にお願いしていた。


 伯爵家では使用人達の子供達はひとつの部屋に集めて、交代で子供達を面倒を見るシステムにしている。

 いわゆる託児所のような感じ。この世界にはない考えだ。


 親が仕事の時は上の子が下の子の子守りが当たり前の世界。子供だけの留守番なんて何があるかわからない。だからしっかり働いてもらえるように大きな部屋を開放して、庭を整備してしっかり柵を作って危険防止をしてそこで遊べるように遊具も置いている。


 リュシアンもたまにそこにお邪魔してみんなと遊んでもらっていた。


 ソフィアは私やリュシアンがいなくて寂しいのかしら?子供には罪はないもの。でも、あそこに帰るのは……



 



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