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6話  リュシアン初めての父との対面 ④

「貴女のことを信用して任せていたのに」


 そう言って睨みつけていた旦那様は私の赤くなった頬を見てハッと我に返ったようで、怒りに満ちていた顔が少し青ざめていた。


「っ、す…すまなかった」


 そんな顔をするなら最初から叩かなければいいのに。でも不思議に腹が立たなかった。

 ああ、男の人なんてこんなものよね。

 と、当たり前のように……思う?


 これは……多分………記憶にないけど前世の元夫のことを覚えていたのだろう。忘れたくなるくらい、嫌な思い出しかない夫だったのかもしれない。顔も名前も思い出さない、だけど暴力を振るわれたことはなんとなく思い出した。

 叩かれることに慣れている自分に苦笑した。


 冷静に以前のことを思い出しながらも、足元で怖がって泣くリュシアンの泣き声に我に返った。


「リュシアン?ごめんなさい………大丈夫だから、ね?泣かないで」


 屈んで泣き出したリュシアンを抱きしめた。


「か……あ…さまぁ!うっ……わぁ~ん」


 私の胸に顔を埋めて泣くリュシアンは体が震えていた。


「怖かったわね、もう大丈夫。早くお部屋へ行きましょう」


 抱っこして立ち上がり部屋へ行こうとした私の腕をぐっと掴んだ旦那様。


「待てっ」


「離していただけますか?」


 冷たくそう言うと彼の手を振り払った。


「その子は……君の子供なんだろう?誰の子か知らないが伯爵家に置いておく許可を出した覚えはない」

 なんてことを言い出すの?この人っ!!


「な、何を……この子は確かに私の子供です……リュシアンは………」

 ーー貴方の子供でもあるんですよ?


 そう言いたいのに最後の言葉が言えなかった。

 ううん、言わせてもらえなかった。


「悪いがその子を屋敷に入れるのはやめてくれ。ソフィアに悪い影響があっては困る」


「………はあ……」

 またため息が出た。


 怒りよりも呆れてしまってこの人とまともに話すことが馬鹿らしく感じた。


「そうですか……では、私はこの屋敷を出て行かせていただきます。政略結婚でしたので、そろそろお別れしてもよろしいかと。業務提携も上手くいき互いに利益を上げられました」


「ま、待てっ。ソフィアはどうする?」


「貴方が連れてきた子供でしょう?子供に罪はないと思い、リュシアンと同じように愛情を注ぎ育てるつもりでした。でもリュシアンを追い出すのなら私はここに留まるつもりはありません。離縁状はいつでも貴方に渡せるように用意してあります。ジョンソンにお願いして預かってもらっておりますのでサインしてくださればよろしいかと」


 もういつでも離縁できるように準備はしていた。こんな歪んだ夫婦関係なんていくら政略結婚とはいえ続けてはいけない。


 この人は私が不貞を行ったと思っていたのだろうか。だから帰ってきてからもまともに私と会話をしようとしないし不機嫌だったの?


 手紙で子供が生まれたと書いたけど……まさか自分の子供だと思っていなかった?


 まともに会話をしていなかったのは確かだけど仕事の引き継ぎや説明で話はたくさんしてきた。一言……何か言ってくれれば……ううん、私も子供のことは避けて話そうとしなかった。

 リュシアンがあまりにも不憫だ。


 私は……最低な母親だ。意地になって……この子を不幸にしようとしていた。


 ソフィアはまだ小さい。一度は私の手元にきた子供なんだからあの子にも愛情をかけて育ててあげたかった。


 でも私にとって一番大切なのはリュシアンなの。


「セバスチャン、クローゼットにある私の鞄を取ってきてちょうだい。……馬車は、少しの間だけ貸していただいてもよろしいかしら?」


 私は実家に帰るつもりはない。

 あそこは私が帰る場所ではない。


 事業のために実家とやり取りはしたけどあくまでもお互いの利益のためであってそこに情はない。


 私が子供を産んだからといって会いにきてくれたこともリュシアンに何かプレゼントを贈ってくれたこともない。


 父は継母の顔色ばかり見て私のことなど利用するだけの娘だとしか思っていない。


 玄関を出ようとした時、旦那様が扉の前に立ちはだかった。


「待て。その子だけ追い出せばいい話だろう?ソ、ソフィアだって君に懐いているんだ」

 さっきからこの人は……


「私の子供はリュシアンです。ソフィアは貴方の子供でしょう?」

 リュシアンも貴方の子供なんですけど。


 その言葉は飲み込むことにした。だってリュシアンはこの人に怯えているのだもの。















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