5話 リュシアン初めての父との対面 ③
「リュシアン、お腹いっぱい食べた?」
「うんっ!」
リュシアンの部屋へ行くとリズが朝食を食べさせててくれていた。もう食べ終わったようで口を拭いてくれていた。
ニコニコとご機嫌のリュシアンに「お洋服を着替えましょう」と言って外で遊んでも大丈夫な動きやすい服に着替えさせることにした。
そろそろ自分でお着替えできる年なので自分でできることはさせている。
不器用ながらにもボタンをとめたり、時間はかかってもズボンを履いたりする姿はとても可愛くて思わず見ているだけでキュンとなった。
少しシャツが出ていてもボタンが一つずつズレていても誇らしげに「できたっ!」と言って笑顔を見せてくれる我が子に「とても上手に出来たわね」と思いっきり褒めてあげて抱きしめた。
「きゃっ」
抱きしめてると嬉しそうに頬擦りしてきた。柔らかいマシュマロのようなほっぺが気持ちよくてとても幸せ。
「最後の仕上げはお母様がしてもいいかしら?」と言って、おかしなところはきちんと整えた。
「かあさま、きょうは、なにするの?」
「お弁当を食べましょうね。そしてソフィアと一緒にかけっこしましょうか?」
「い~っぱい、はしっても、いいの?」
「ええ、いっぱい走りましょうね」
「おはなもみれる?」
「もちろん、この屋敷には咲いていない、お花を探しましょう。それに虫さんもいるわよ」
「むし?」
目を輝かせる。
キラキラした瞳が可愛らしくてピクニックでどんなことをするのか想像しただけで楽しみ。
わたしが作ったお弁当、喜んでくれるかしら?
前世の記憶を辿って今世では初めて料理をした。
前世のようなたくさんの調味料や食材があるわけではない。味噌や醤油もない。
マヨネーズやケチャップ、ソースは前世の味に近いものはあるけど料理人がそれぞれ手作りで作るので売ってはいない。
味見をさせてもらって自分好みの味のマヨネーズを作り、子供達が好む卵のサンドイッチを作った。ハムやソーセージ、ベーコンも手作りで料理長が作っているので、有り難く使わせてもらった。
りんごは定番のうさぎさんの形にむいた。パンは前世でよく子供達に焼いてあげたレシピを思い出して、白パンを焼いた。天然酵母もりんごから作った。子供達が大好きだったパン、もちもちして食べ応えがあるけど前の日に焼いておけばしっとりして子供でも食べやすくなる。
ジャムは料理長からのおすそわけ。
そして唐揚げ!
これはこの世界にはないので頑張った。塩や胡椒、ニンニクや生姜を使い下味をつけて揚げた。
「この料理はなんですか?」と驚かれながらも「わたしが本を読んで知った料理なの」なんて言って適当に誤魔化した。
屋敷を出る時はリュシアンだけ別の場所から出ることにした。
ソフィアやサラ達と馬車に乗り込む時にどこからか旦那様に見られているかもしれない。
馬車で屋敷を出た後、裏門へ回ってリュシアンと護衛騎士を拾う。
リュシアンは騎士に抱っこされて手を振って待っていた。
『ぼく、そ~っと、やしき、でるの?』
何も事情を知らないリュシアンは楽しそうにそう言った。
私って何を意地張ってるの?
リュシアンを馬車に乗せて膝に座らせた。
「ごめんなさい、一緒にお出かけしなくて一人別の場所からなんて……嫌だったわよね?」
「ううんっ!へいき!おもしろかった!」
「面白いの?」
「だって、こっそり、だよ?ワクワクした!」
「ワクワク?」
「うん、ワクワク!」
子供ってどんなことでも楽しむ天才なのよね。ソフィアはそんな楽しそうに話すリュシアンを見て、楽しそうに笑っていた。
「るしぃ、たのしい?」
「うん!ふぃあもいまから、たのしみだね」
「たのしみ?」
「むしいっばい、いるって!!」
「むし?やだっ」
「なんで?かっこいい、むし、いるよ」
「いない~!!やぁだ~!!」
「え~、そんなことない!ねっ?かあさま?」
「………うーん、どうかしら?ついてからのお楽しみね?虫は護衛のロード達と一緒に探してね?」
ロード達は馬車の後ろから馬に乗ってついてきている。
流石に虫を触るのはあまり得意ではない。そこは男手に頼ろう。
ピクニックは屋敷から30分ほど走った森のそばの湖がある場所を選んだ。
ボートに乗ったりたくさんの花が咲いていたり、子供達にはたくさん楽しめる場所になっている。そこにはブランコやシーソーなど子供が遊べる広場も整備されている。
ここはわたしが発案した街の人たちがゆっくり遊びに来れるようにと作られたレジャー施設だ。
カフェやお土産屋さん、絵を教えてもらいながら描いたり、アクセサリーを手作りしたりできる体験型のお店もある。
子供達には前世ではお馴染みのボルタリングも!
怪我をしないようにしっかりマットレスも敷いていて、子供の歳に合わせて何ヶ所か作っているので、リュシアンでも遊べる。
今日はリュシアンに私が考えたこの場所で遊ばせてあげたかった。
だけど………
昼食を終わらせて眠たくなったソフィアがぐずり始め、楽しんでいたリュシアンも「そろそろかえる」と我慢をして言ってくれた。
「リュシアン、お片づけする間、ロードとまだ『壁のボード』で遊んできていいわよ」
「うん!いいの?」
「ええ、ソフィアは眠たいみたいだからリズにお願いするわ」
リズにソフィアを頼んでわたしはこの施設の管理をしているヨゼフと少し話しをすることにした。お昼寝をしてもらって、その間にさっさと終わらせよう。
提案はしても現地を訪れて自分の目で見ないとわからないこともある。
もう少し腰掛けるベンチを増やしたほうがいいとかわかりやすい看板があるといいとか、私なりの提案をしたくて施設を見て回っていたので話はすぐに終わりそう。
話しているとリズが真っ青な顔をして私のところへやってきた。
「奥様、ソフィア様が……」
「どうしたの?」
「ぐったりされています。熱が出てしまったようです」
「……そう、急いで屋敷へ帰りましょう」
ソフィアはさっきまで元気だったのに……子供は突然熱を出してしまう時もある。
屋敷に帰って急いでお医者様に診てもらおう。リュシアンもソフィアを心配して「だいじょおぶ?」と優しく声をかけてくれた。
なのに………
屋敷に帰ると旦那様がいきなり私の頬を打った。
「ソフィアに熱を出させるなんて!」
屋敷に帰ってきてすぐ、ぐったりするソフィアを見た旦那様はとてもお怒りになった。
私の足元には慌てていて、リュシアンがいたのに………
「わぁーーーーん」
驚いたリュシアンの泣き叫ぶ声が屋敷の中に響いた。
しまった!と思ったけど……最悪の対面になりそうだ。