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46話

 殿下の話は、今まで調べた途中経過で終わった。


 レベッカ様は今も牢に入れられているらしい。この国を陥れようとした罪は簡単なことではない。争いによりたくさんの命を、そして騎士や兵士の体に一生残る傷を残した者も沢山いる。


 父親にそして元夫に復讐するにはあまりにもたくさんの人を巻き込んでしまった。


 辺境伯爵である父親、そして親族も皆責任を取ることになる。


 爵位を廃爵にすることはできないので、辺境地はさらに過酷な重税を求められることになる。元々娘のせいで多額の負債を抱え首が回らないのに、さらに重税を課せられればどうなるのか。

 わたしなりに調べてみたら。


 周りは友好国とは言えない国ばかり。そんな国境を守るために税を優遇されさらに国から助成金までもらっていた。なのにその恩恵を受けられないと分かれば辺境の領民たちがこのまま黙ってはいないだろう。


 元々が農作物も実りにくいし大した産業もない辺境地で、武器や戦闘用の服、小物を作ったりしてお金を稼いでいた場所だ。


 辺境伯領地が疲弊すれば国境を守るのも危うい。


「殿下……一言だけ宜しいでしょうか?」


「当主である辺境伯様自身が処罰されるのは仕方がないことだと思います。でも領民たちに何の咎があるのでしょう?戦地として多数の被害を出し、常に困窮した生活を送ってきたのに、さらに苦しめと?それが一国の王となる者が考えることなのでしょうか?」


「………ルシナ………」

 伯父様がわたしを慌てて止めようとした。でもその顔は微かに笑っていた。


 うん?どうみても苦笑い?

 それは言ってしまえと言うことかしら?


「いや、公爵、止めなくていい。それで君ならどう思うんだ?ルシナ殿は前世の記憶持ちだから考え方も違うだろう?」


「罪は…犯した人が償うべきです。それ以外の人が罪を償うことはあってはならないと思います。命の重みはどんな高位貴族でも平民でも同じなのです」


「ほぉ、それは其方のいた世界での考え方なのか?」


「はい、人の命を差別することはありませんでした。人の命は尊いと習ってきました。わたしはこの国での言い方で言うと、薬師として生きてきました」


「確かに、領主の責を領民にまで押し付けるのが悪政になってしまうのは確かだ。ならば君ならどうする?」


「わたしなら……辺境伯様の立場を降爵して財産を差し押さえそれらを領民たちの戦で荒れた領地を復興する資金にします。そして復興したのち、しっかりと税を取ります」


「何もない産業で何をさせる?」


「辺境地は確かに何もありませんが山があります。山は自然の宝庫です。木は木材として、山の恵みである木の実や山菜、探せば薬草だってあるでしょう。それに武器を作る技術があります。武器を作るのは大切なことです。この国を守るためには剣や盾など沢山要りますから。国からの発注など少しは優遇できませんか?」


 伯父様にもそう言いながら微笑んで見せた。伯父様は「ほぉ」と言って一瞬考える仕草を見せて、「わかった」と頷いた。


「武器を作る技術で、 刃物だけでなく工具、農具などの製造・修理を行えるはずです。そちらにシフトするのもいいのでは?」


「簡単に言うがそんなことができると思うか?」


「生きていくためなら領民も必死で頑張るしかないのでは?わたしも子供二人を育てるために必死で生きて生涯を全うしました」


「それが前世の記憶か?」


「はい、そうです」


「ルシナ殿の前世の記憶をわたしに話す機会を作ろう。その考え方、とても面白い。良いと思えるものは取り入れるのも悪くない」


 殿下はとても底深く何を考えているのか読めない。態と軽く話を振ってきたりするけれど内心では何を考えているのか……伯父様以上にわからない人だ。


 これが上に立つ立場の人たちで、わたしのような庶民にはわからないのかもしれない。


「国にとっても利益になることは大切なことだ。辺境伯の罰をどうするかもう一度考えよう。で、レベッカ嬢のことなんだが彼女は死刑になる」


 殿下は「その件に関しては何も言わせない」と圧をかけるようにわたしを見た。


「たくさんの人を死なせてしまった罪は命を持って償うことになる」


「………はい、それは当たり前のことだと思います。ただ……罪を犯した二人の両親の子供であるソフィアには関係ないことだと思います。どうか配慮をお願いできないでしょうか?」


「今の君はソフィアに会ってはいないだろう?ソフィアはずっと王宮内で預かっているからな」


「会ってはおりませんが……なぜかソフィアの名を聞くと胸の奥がとても苦しくなり切なくなります……ルシナにとって大切な子なんだと思います。リュシアンのことを忘れていても、とても大切で愛していると感じるようにソフィアのことも忘れていても大切なんだと思います」


「流石にソフィアをどうこうしようとは思ってはいない。まぁ、あの子をどうするかは今後の課題ではあるが……」


「よかった」


 わたしは胸を撫で下ろした。


 記憶はなくても日記で読んで、不思議にソフィアのことを考えると心が温まって会いたいと思ってしまう。

 ソフィアがきっかけで夫婦関係は破綻したのに、ルシナにとってソフィアは……娘のような気持ちだったみたい。


 わたしが娘と息子を育てた大切な思い出や感情が彼女の中にあったからかもしれない。


 殿下は「また近いうちに呼ぶから」と軽く言われた。


 妃殿下のことは?ふとそう思ったけどそれはいずれ分かることなのだろう。わたしが考えることではないし。


 このままあやふやにされて終わるのか、きちんと処罰を下すのか、それとも……「病死?」なんてことにはならないわよね?


 廊下を出て歩いていたが、立ち止まり殿下のいた部屋を振り返る。


「どうした?」


 始終黙って話を聞いていたマシューがわたしの顔を覗き込んだ。


「ううん。なんとなく振り返っただけ」


 殿下は……大丈夫だよね?


 何かよくわからないけど、嫌な予感がした。でもここは王宮。また部屋に戻り殿下と話したいと、簡単に行動できる場所ではない。


 伯父様は「リュシアンがルシナをずっと待っている。早く顔を見せてやりなさい」と言われ「はい」と頷いた。


 話の間、ネージュ様はとても難しい顔をしていた。何度かわたしと視線が合ったが、彼は目を逸らさずただじっと見つめ聞き入っていた。


「わたし」はネージュ様に対して恋愛感情はない。でもリュシアンの父親であることは確か。


 一度彼ともきちんと話をしてみないといけないなとふと思った。


 わたしの記憶が戻るかはわからないけれど、これからもルシナとして生きていかなければいけない。そのためにも今しなければならないことは沢山ある。


 ふぅーっと大きく息を吐き、「頑張ろう」とひとり、呟いた。


「うん?ルシナ?君には俺たち家族がいるんだから一人で頑張る必要はないよ?」


 マシューがそう言うと「そうだな、ルシナはわたしの大切な娘だ」と伯父様も相槌を打ってわたしの頭に優しく手を置いて撫でてくれた。


 こんな優しい家族と過ごせるなんて……


 わたしではないルシナの気持ちが、溢れてきたのを感じた。





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