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45話

「男にはわからない?」

 繰り返すように小さな声で呟くと殿下が苦い顔をした。


「君は今『ルシナ』としての記憶はないから君と妻との関係もよくわからないだろう?」


「………はい。日記は一通り読んでいますが妃殿下のことはただ同じ歳でお互い切磋琢磨して互いを高め合う関係だったと書いていました。ただ元々、王太子殿下の婚約者であった妃殿下と父親に嫌われてなんの価値もないルシナでは交流することはなく互いに成績のことで意識し合うだけの関係だった。それでも時に目が合うと優しく微笑まれる妃殿下に少しだけ友としての情を感じることがあってそれがとても嬉しかったと書いていました」


 なのにどうしてルシナに酷いことをしたのだろう?

 客観的に二人の話を訊いて思ったのは、妃殿下のルシナに対する嫉妬。

 でも家格も公爵家の出身である妃殿下が上、成績だけはほぼ互角だが容姿だって妃殿下の方が上だと書かれていた。


 手入れされた美しい髪、肌の美しさ、両親から愛情を受けて育っていると感じる明るい性格と笑顔。その全てが羨ましいと、ルシナにとって妃殿下は唯一憧れだと書かれていた。


 だからこそ伯父様に話を訊いても信じられなかった。妃殿下がどうして?妃殿下より劣るわたしなのに、こんなルシナに嫉妬をするなんて……


「ルシナ殿にとって妻は憧れだったようだね?だが妻にとっては常に比べられかなりキツい思いをしてきた相手だったらしい」


「でも……今までは何もされていなかったのに……突然どうしてでしょう?」


「君は、前世の記憶を持っていると公爵から訊いている」


 あっ……伯父様には内緒だと言ったのに!

 チラリと伯父様を見ると何食わぬ顔をしてわたしの顔を見てにこりと笑ったと思ったらすぐに殿下の話に聞き入っていた。

 わたしは何も伯父様に言えず仕方なく「はい」とだけ答えた。


「ネージュが戦地に行ってからの君の活躍はこの国の流行や生活を変えるような目覚ましいものばかりだ」


 確かに子供のための玩具や絵本、新しいドレスのデザイン、馬車などいろんな提案をして商品化してきた。この時代にはないものばかり。


 わたしが生きた国では当たり前のものやもう昔の話になってしまったものたちも、この国の今よりもより良いものがたくさんあったので、提案して商品化したみたい。


 薬剤師として生きたわたしの薬の知識はこの国の薬草にも生かされた。

 伯爵家の領地を巡っていた時に山を散策して野草や山菜を採りに行き、そこでいくつかの薬草を見つけ薬として安価で商品化した。


 日記に書かれたそれらは、今のわたしでも多分考えたであろうこと。記憶はなくなっていてもルシナの行動に共感できた。


 自分ができることを少しでもしてみたいと思う、その気持ちに。


 そして勉強を頑張っていたのはあの侯爵家に居場所がなく、やることが勉強くらいだったから。それに頑張ればもしかしたら父親が少しでも自分に興味を持ってくれるかもしれないと安易に期待したから。

 期待外れでいくら成績が良くても褒められることも関心を持たれることもなかったらしい。

 そんなに嫌いならさっさとルシナを捨てればいいのに。ルシナを捨てるよりもそばに置いて冷たくあしらいルシナが傷つく姿を見る方が侯爵様にとっては気持ちがスッキリしたのかもしれない。

 愛してもいない女から産まれた娘のルシナが泣く姿や惨めに過ごす姿は、侯爵様にとっては胸がすく思いだったのかもしれない。それくらいルシナを……わたしを嫌っていたのだろう。記憶がないのに、なぜか胸が苦しい。

 あんな父親に愛情なんて求めて……


 人の不幸ほど甘い蜜はないから。継母や異母妹、義兄にとっても邪魔な存在のルシナだけど、ストレス発散するにはもってこいの人物だったのだろう。


 殿下の言葉につい色々考え込んで返事すらまともにできないでいると殿下が「ルシナ殿?」と声をかけてきた。


 はっと我に返り「申し訳ございません。ルシナのことそして今のわたしのことを考えてしまいまして……」焦って思わず言い訳をしてしまった。

 大きく深呼吸した。


「わたしが前世の記憶を取り戻し、その記憶から新しい色々な事業を始めたのは確かです。でもそれが妃殿下の心を煩わせることになったのでしょうか?」


「妻は君の活躍に嫉妬したんだ。この国で王妃の次に高貴な女性として生きてきた。名声も富も羨望も全てを独り占めして生きてきた彼女にとって君はやはり邪魔者でしかなかったんだ。そして君を君の一番苦しむことで排除しようとしたんだ」


「それで治験薬を使ったのでしょうか?」


「うん、そうだね。それからネージュをレベッカ嬢が誘ったのも、ソフィアをネージュに預けるように仕向けたのも全て妻だった。流石に戦争に関しては関与していないと言っているのだが、どこまで信じていいのか……」


 言葉を濁しながらも周囲をギロリと睨みここでの話はここだけだとさらに圧をかけてきた。






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