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4話  リュシアン初めての父との対面 ②

 朝食の時間、ソフィアと三人で黙々と食事をする。


 ソフィアは旦那様の顔色を窺うようにチラチラと気にしていた。まだ幼子なのに父親の顔色を見ないといけないなんて……向こうの戦地ではどんなふうに過ごしていたのかしら?


 ソフィアの母親のことを一度聞こうとしたことがあった。


「旦那様、ソフィアの母親のことなのですが………「君には関係ないことだ」と冷たく言い放たれてそれ以上質問することは許されなかった。


「ハァー……わかりました」


「ソフィアは大切な娘だ。しっかり育ててくれ」

 そう言うと旦那様はわたしへ視線すら向けずにソフィアを優しく見つめ、また料理へ視線を戻すと黙々と食べ始めた。


 あの時、旦那様はソフィアにとても愛おしそうな視線を向けた。でも私には視線を向けることも優しく話しかけることもない。


 結婚してからのひと月はいくら無口な旦那様でも確かにそこに優しさや家族としての愛情はあった。


 戦地で過ごした4年間の間に旦那様には私への情は失くなってしまったようだ。手紙は領地を心配することだけで私を労わる言葉もなかった。ましてや子供について何ひとつ書かれていない。


 まるで私の手紙の内容を読んでいないかのように。でも私からの伯爵家の領地についての報告や新しい事業の報告については返事を書いてくるので旦那様に手紙は届いているはず。そこには必ずリュシアンのことも書いていたからそこだけ読まないなんてあり得ない。


 旦那様が帰ってから私と旦那様は寝室を共に過ごしていない。私はリュシアンと同じ部屋で過ごしている。


 ソフィアは旦那様の目もあって一人で寝室で眠る。

 本当はリュシアンと三人一緒に寝てあげたいのだけどリュシアンのことを知らない旦那様が夜寝ているソフィアを確認に来たら困ったことになるので、可哀想だけど一人で寝てもらっている。

 もちろん寝かしつけるのは私で、隣の部屋にはメイドに交代で寝泊まりしてもらっている。


 旦那様にやはり「我が子ではないから一緒に寝るのは嫌なんだな」と最初の頃冷たく言われた。


「ならば旦那様が添い寝して差し上げたらいかがですか?」

 私も冷たく返した。


 私はソフィアに対して愛人の子だからと冷たく突き放す気持ちはない。

 だって娘と息子を育てた記憶がある私はソフィアもお腹を痛めて産んでいなくてもとても可愛く感じる。まるで前世の時の二人の子供達が私のそばに戻ってきてくれたようで、切なくなるくらい愛おしい。


 またあの頃の懐かしい温かい気持ちに包まれて私の方が癒されている。


 旦那様はそんな私の気持ちに気が付かない。私がまるでソフィアを冷遇しているとでも思っているようだ。

 それも私がそう思わせる態度をとっているから。


 確かに朝食しか一緒に食べていないように思われているだろうし、ソフィアに対しても旦那様の前ではあまり構ってあげていない。


 こうして黙々と食事をしてしまうのはソフィアに対してもよくない。

 心の中で『ごめんなさい』と謝りつつも旦那様の前では可愛がる姿を見せたくない。


 多分これは私の意地。


 戦争から帰ってきて愛人の子を私に育てろと言った旦那様への意趣返しだ。


 だからリュシアンのことも知られたくないし(一緒に暮らしていればいつかはバレるだろうけど)ソフィアのこともとても可愛いがっていることも知られたくない。


 でも今日はピクニックへ連れていってあげたい。


 だから朝食の時間に旦那様に「今日はソフィアとお出かけをしてきます」とだけ伝えた。


 数日前にも一応ジョンソンを通して伝えてもらってはいた。


「ああ」とだけ答えた旦那様。


 私はまた小さくため息をついて「ソフィアの用意をお願いね」とサラに頼んで私は食事を終わらせてリュシアンのいる部屋へと向かった。



 旦那様が私の背中をじっと見つめていたことに全く気がつくことはなかった。


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