36話 パーティー ⑨
「私がしたことは………あまりにもたくさんの人の命を巻き込んだ……」
レベッカは理解していた。でも……
「辺境地の民はどちらの国も疲弊しておりました。唯一戦うことでしか収入を得ることができない……痩せ細り植物が育ちにくい土地でした……戦いは人の命を奪いますが人の命を救いました。たくさんのお金と物資と食べ物が手に入りました。欲を出し武器をたくさん仕入れ破滅へと向かう人達もおりますが……」
「それは自分を正当化したい言い訳かい?」
「どうぞご自由に」
妖艶に微笑むレベッカの腕を二人騎士が両端でそれぞれ掴むと引き摺るように連れ去ろうとしたとき。
「こんなのんびり話してもいいの?今頃リュシアンはどうなったのかしら?」
レベッカは思い出したかのようにそう言った。
「貴女に心配されなくてもリュシアンはルベルト伯が攫ったあと、すぐに駆けつけて俺が助けた。ルベルト伯はもともと怪我が治っていない状態でこちらへやって来たから……まあ、助からないだろう」
ネージュは冷たく言い放った。
「なっ………」
レベッカは何か叫ぼうとしたが隣にいた騎士に布で口を塞がれてそのまま執務室を去った。
「はああ……きっかけは復讐か……父親と元夫に……」
机に置いていた手を頭を抱えるように項垂れた王太子殿下。
「辺境伯が憂いていることは知っていた……隣国との睨み合いで、上手く政策が行えていないことも理解はしていた。だが……戦をすることでしか領民達が生きていけないほど逼迫していたなんて………」
王太子殿下は言葉を失った。
「……あそこは痩せた土地で作物があまり実らない……領民達は貧しく、武器や戦闘服などを作り暮らしていました……」
ネージュも四年近くあの領地で過ごしたのでそれは理解していた。それでも戦のおかげで領民達は忙しそうに仕事をしていたため、そこまでとは考えていなかった。戦が終われば皆居なくなる。
そして残ったのは酷い荒地と怪我人や仕事を失った者達……そこにネージュ達騎士団は思いが至らなかった。
復興支援金がこれから給付されるのだから大丈夫だと思っていた。
そのあとの辺境地のことまで考えはなかった。それは領主である辺境伯が考えることで自分達は戦が終わり、ホッとして家族のもとへ帰っていった。
「これからのことは……私の仕事だ……」
王太子殿下はそう言うとネージュにルシナのところへ行くようにと伝えた。
「ルシナ殿には辛い思いばかりさせた。今は薬で落ち着かせているがネージュ、安心させてやってくれ」
ネージュはリュシアンを助けてからすぐにルシナのもとへ行こうとしたが、レベッカを捕まえることを先にするようにと命令が下った。
リュシアンは今王太子殿下の子供の乳母をしている侍女が一番安全な王太子宮で面倒をみている。
ルシナは犯罪者と何かしら関連のある人物だと医務室では勘違いされていた。ネージュはルシナがまさか犯人のように縄で縛られて薬で朦朧とされているとは思っていない。
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王太子殿下に職務から離れてもよいと許可を得て急ぎルシナのいる医務室へと向かった。
広い王城。ルシナのいる医務室まで走っても時間はかかる。肩で息をしながらなんとか医務室についた。
そこには縄で縛られ朦朧と天井を見つめるルシナがベッドに寝かされていた。
「ル……ルシナ?」
一瞬、呆然としてルシナの姿に固まったネージュは「なんでこんなことななってる?」と慌てて縄を緩め解いた。
「…………」
涙の痕の瞳はネージュを映しているはずなのに何も返事はなかった。
後ろにいた看護師が「申し訳ありません…………師が勘違いして薬を多く投与したらしいです」と目を逸らしながら告げた。
名前を言うのを憚り口籠もりながら伝えた看護師にネージュは「ふ、ふざけるな!」と思わず大きな声を出した。




