34話 パーティー ⑦
「お願い……リュシアンを………」
何とか部屋から出ようとしたため私はベッドに寝かされたまま手を紐で縛られて動けなくさせられた。
メイドらしき女性が「申し訳ありません」と言って何度も謝ってくれた。
「お願い、この紐を解いて。リュシアンを助けに行かなきゃ」
だけど私の願いは聞き入れてもらえなかった。
何とか抜け出そうと暴れていたはずなのに私はだんだん意識がぼんやりとして寝ているのか起きているのかわからない状態になっていた。
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(ここからは三人称で話が進みます)
「ねぇ、リズ。ネージュはどこにいるのかしら?」
レベッカはルシナの姿が見えなくなるとイライラする様子を見せながらネージュの場所を尋ねた。
「旦那様は多分……昼間は王太子殿下の護衛のため王宮内の殿下の執務室にいらっしゃると思います」
「ったく使えない男ね」
吐き捨てるようにそう言うと、しばらく考え込んでから「じゃあ、殿下のところへ行くしかないわね」と仕方がなさそうに廊下をずかずかと歩き出した。
リズはソフィアを抱っこしたままどうしようかと戸惑っているとレベッカは後ろを振り返った。
「リズはソフィアのお守りをさっきの部屋でしておいてちょうだい。絶対部屋から出ないで!わかったわね?」
リズは戸惑いながらも「はいっ!」と返事をすると急いで部屋へと戻った。
「ま…ま?」
ソフィアはルシナの姿が見えなくなって不安でリズの胸の中で泣きじゃくって困らせた。
「ソフィア様?お母様はすぐに戻って来られますよ?」
「かぁさま………ちがう……ままっ!」
「……あっ…ルシナ様…………ナノネ…」
リズは隣の部屋に入っていったルシナのことを考えると胸が痛くなった。
リュシアンが連れ去られルシナがとても動揺しているのを見て胸が苦しい。ずっと共に過ごしてきた優しい元ご主人様であるルシナ。屋敷の皆で成長していく姿を見守ってきたリュシアンが攫われたと訊いて居ても立っても居られない。本当はルシナのところへ行って共に探しに行きたい。ほんの少しでも慰めになるならおそばに居させてほしい。
だけど今はソフィアの世話をするのが役目。泣きじゃくるソフィアを抱え途方にくれた。
一方、レベッカは「王太子殿下にお会いしたいの」と王宮の近衛騎士に向かって言った。
「こちらから先は許可のない者はお通し出来かねます」
「私はレベッカ・ジャクソン。ラズリー・ジャクソンの娘よ。隣国のルベルト伯のことで話をしにきたと王太子殿下に伝えてちょうだい」
「ルベルト伯?」
眉根を寄せる近衛騎士に向かって叫んだ。
「もう!話が通じない男ね!今この城に居てはいけないはずの男が居るの!そして子供を攫ってしまったの!攫われたのはネージュの息子だと伝えて!」
「え?ネージュ殿の?わ、わかりましたっ!」
近衛騎士もネージュのことは知っているようだった。
「ったくどいつもこいつも使えないんだから!」
レベッカは「ふんっ、さっさと通しなさい!」と止める騎士を無視して王太子殿下のいる執務室へと歩き出した。
「お待ちください」
一人の騎士はその場を守り、もう一人の騎士は急ぎ殿下の元へ向かい状況説明へと走った。
「ここね?」
執務室の前に立ったレベッカは扉のノブに手を掛けて一瞬躊躇したが、フッーと息を吐き「失礼致しますわ」と執務室へと入った。
中には王太子殿下を始めネージュ、一足先に中に入った先ほどの騎士や文官らしき人達が数人、机に座り仕事をしていた。
「やぁ、やっと姿を現したね?レベッカ嬢」
「ふうん、そんなにのんびりしていて大丈夫なのかしら?」
レベッカ嬢がそんな態度の王太子殿下に嫌味のように言った。
「ああ、ネージュの息子のことだろう?」
「………」
ネージュは怖い顔をしてただ黙ってレベッカを睨みつけていた。
「ネージュ?私のせいだとでも言いたいの?」
「………違うのか?」
「うーん………そうね……悪いのはルベルト伯であって私はただこのパーティーに参加しただけだわ。何だか私が何かしたみたいに言われていい気分はしないわね」
レベッカはあっけらかんと笑って肩を上げて「ねっ?」と言った。
「ふうん、だったらなぜこの執務室に慌ててやってきたんだい?」
王太子殿下は少し意地悪っぽく訊いた。
「わかってるでしょう?ルベルト伯は隠れてしまった私に会いたくてこの王城に現れたんだもの。モテる女は辛いわ」
頬に手を置きしなだれるような仕草で妖艶に微笑んだ。
「君は何をしたいんだ?ネージュの家庭を壊し、ネージュの屋敷に住んで、ネージュの息子が攫われるきっかけを作る。そんなに彼を不幸にしたいの?それとも元嫁のルシナ殿を陥れたいのかい?」
眉根を寄せて王太子殿下を見た後ネージュの方へと視線を向けた。
ネージュは拳を握り締め、いつ怒鳴り上げるのかわからない状態で、周囲はすぐに止めるため動けるようにと構えていた。
「私?私は……ただ幸せになりたかった……それだけだわ」
「貴女は……人が不幸になっても、それでも、幸せになりたいのですか?」
ネージュは悔しさを噛み締めながら訊いた。
「私が不幸にしたわけではないわ。浮気をしたのは貴方でしょう?奥様と離縁したのも貴方の態度が悪いからではないの?周りの噂を信じて疑って自分の子供を浮気してできたと思ったのでしょう?そうそう、頬を叩いたらしいわね、何もしていない奥様を。可哀想にかなり腫れ上がったと訊いているわ」
ネージュを見ながら笑い出した。
「ふふふふっ。ああ、おかしい……」
ピタッと笑うのをやめて。
ネージュの顎に手を置きグイッと持ち上げた。
「人のせいにしないでちょうだい」
「なっ……」
ネージュは怒りと屈辱……そして本当のことに何も言えなかった。瞳が大きく見開かれぐっと眉間の皺を深めた。
圧倒された周囲は黙って見ているしかなかった。
「あーーー、おいおい、今は言い争ってる場合じゃないだろう?」
王太子殿下がそんな空気をぶち壊すように手を叩いて声を上げた。
「あっ」
ネージュは王太子殿下へ視線を戻した。
「レベッカ嬢は何か話があって来たんだろう?」
「ふふっ、そうだったわ。………殿下、ルベルト伯なんだけど、彼を殺さないでください。あの人は今回の争いを何とか止めようとしたの。なのに彼の妻が嘘の情報を彼に伝えてこの国へ攻めてきたの、彼には罪はないわ」
「はっ?そんな簡単に騙されるものなのか?ルベルト伯は馬鹿なのか?それに罪がない?どれだけの血が流れたと思うんだ?」
「彼は……奥様に操られていたの。食事に薬を盛られて洗脳に近い状態だった……たまに我に返って正常になってもまたすぐに奥様の言いなりになるの」
レベッカはいつも傲慢で人を小馬鹿にした態度だったはずなのに、ルベルトのことを話す時、とても優しい目になった。
「だから彼に罪はないと?今ネージュの息子を攫っているのも何か理由があると言うのか?」
「…………それは……わからない……でも私が彼から……ううん、彼の奥様から逃げてるから……そうするしかなかったんだと思うの。彼はリュシアンに酷いことをしないはずだわ」
「話にならない」
王太子殿下は冷たく言い放った。




