31話 パーティー ④
「ソフィア……祖父様が怖いのか?」
声は低くドスが効いているのになんだか寂しそうに聞こえた。
「えっ?」
顔を見たら……
突然顔を歪めて悲しそうに項垂れた。
「いやっ!」
ソフィアは大きな声で嫌がった。
「そ、そうか………」
「あ、あの……ソフィアに何か酷いことをしようと思ってるのでは………」「そんなことする訳ないだろう?可愛い孫なのに……」
うん?なんだか思った感じと違う?
「だがなかなか会うことも出来なかったし突然領地から姿を消して王都へ向かったと聞いて……やっと居場所を見つけたと思ったら会わせてもらえず、このパーティーに参加してると聞いて探し回っていたんだ」
私が集めた情報では辺境伯はレベッカ様の出産をよく思っていないし、誰の子かわからない子供のソフィアを疎んじていると聞いていたのに……それに……顔も怖いし……体も大きいし、どう見ても子供から見れば怖く見えても仕方がない……ソフィアが怖がるのも納得の……(チラッ)うん、私でも怖い。
「その子を渡してくれないか?」
ーー「はいわかりました」と渡す訳ないじゃない!
「ソフィアはとても怖がっております。レベッカ様が了解したのならお渡しします。いくら肉親とはいえ私自身は貴方様が本当にレベッカ様のお父上なのか確認のしようがありませんし、もしそうだとしても勝手にソフィアを貴方に預けることはできません」
「ほお、私に歯向かうのか?正面から物怖じせず、私の顔を見ても目を逸らさないなんて肝が据わっているのか、将又ただの馬鹿なのか、どっちなんだ?」
ーーあっ……またニヤッと嗤う。
レベッカ様といい辺境伯といい、似たもの親子なのかもしれない。
何を考えてるのかわからない。心の中が読み取れない。
「わ、私は……ただ、ソフィアを守ってあげたいだけです」
あ……この人本当に怖い。そこにいるだけで威圧されてしまう。
「この子のせいで離縁したのに?」
「……ソフィアのせいでは……ない…とは言えませんが貴族ならば夫に婚外子がいても他所で愛人を作っても平気でいないと駄目なのに……それらを受け入れる度量がなかったのかもしれません。それが出来なかった未熟者の私は離縁を選んだ。ただ…それだけです」
「ソフィアを育てろと言われてどう思った?」
「突然のことなので正直驚いたし腹も立ちました。でも手紙を書いてもまともな返事がなくて、元々諦めていた関係だったので……まあ、手紙は辺境地で改竄されていたようですが」
このくらいなら言ってもいいわよね?
「ふうん、君は私を怖がっている割にいい根性をしているようだな」
顎に手をやり何かを考えているみたい。手紙の改竄のことはやっぱりレベッカ様?辺境伯自身がそんなことをしても何もメリットはないし……知らなかったで正解かしら?
それから少し話をしてなんとか解放された。
「はああああ……疲れた」
ソフィアは結局私から離れたがらないし私自身もなんとも怪しい辺境伯に渡す気にはなれなくて必死で抱きしめていたので、彼がいなくなってホッとして力が抜けたのかソフィアと二人ヘナヘナと床に座り込んだ。
「ソフィア?」
腕の中で震えていたソフィアはいつの間にか疲れて眠りこけていた。
リュシアンもそうだけど眠っている時の顔はまだまだ幼く可愛らしい。
そろそろ会場へと戻ろうと思いつつもソフィアが寝てしまったのでどうしようかと悩んでいると「遅いじゃないの!」とレベッカ様が部屋に入って来た。
ーー娘が心配なのね
少しは親心があるんだと見なおしたのも束の間、「ほんと、頭にくるわ!なんなの!私が母親失格みたいに冷たい目で見るのよ?」と私にぶつぶつと言い始めた。
「??」
驚いてキョトンとしたら「あんたのせいだわ!ちょっと転んだだけなのにまるで私がソフィアを着飾りすぎたみたいに言うから!ほんと、失礼しちゃうわ」と文句を言われる。
「まだ3歳にもなっていない子供にあんな動きにくいドレスを着せるのは虐待と同じでしょう?」
「はああああ???すっごく高いドレスを買ってあげたのに?このパーティーで一番可愛らしくしてあげたのに??虐待?失礼だわ!ソフィアを返して!!!」
ソフィアを奪うように私から取り上げた。
ソフィアはこの人の子供。だから仕方がない。でも………
「疲れて眠ったばかりなんです。優しく抱っこしてあげてください」
「いちいちうるさいわね!ほんと、いけ好かない女だわ」
「あの……ずっと言いたかったのですが……」
「何?」
「レベッカ様のドレス……の裾……破れてますよ?」
言い捨てて部屋を出た。
「ふざけないで!なんとかしなさいよ!」
後ろで叫んでいるレベッカ様をさっさと置いて控え室を出た。
あれだけ騒げば誰か駆けつけてなんとかしてくれるだろう。私が床に膝をつけて縫ってあげるなんてとてもじゃないけどしたくない。
それに……口では酷い言葉ばかりだけど、ソフィアを抱く時、とても優しい顔をしていた。愛情あふれるあの顔は母親だった。




