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25話

「ルシナ、カトリーヌ嬢がお店にきたと聞いた、大丈夫か?」

 マシューが次の日忙しい合間を縫って顔を出した。


 リュシアンはひさしぶりに会えたのが嬉しくて彼の足に纏わりついて「あそぼ」とおねだりしていた。


「リュシアン、後で遊んでやるから」と言うと一緒に来ていたマシューの護衛の二人に「リュシアンの相手をしてやってくれ」と言ってリュシアンをお店の外に遊びに連れ出してくれた。


 これで大人の会話を聞かれなくて済む。3歳だから大丈夫だと思っても案外、しっかり聞いていて理解してしまう内容だってあるかもしれない。


 その言葉に傷つかないとは限らない。昨日のようにカトリーヌが突然来て、私に嫌なことを言うのは我慢できる。

 でも、もしあの時リュシアンに酷い言葉を言っていたらと思うとぞっとする。


 子供には大人の汚い姿をこれ以上見せたくない。それじゃなくても私もネージュ様もリュシアンを傷つけてしまったのに。



 リュシアンの嬉しそうな後ろ姿を見送ってからマシューと奥の応接室へ。


 お店の従業員がお茶を淹れてくれた。


「うん?この茶葉は……うーん、どこのだろう?」

 マシューがお茶を飲みながら眉を顰めた。


 ふふふ、わかるはずがないわ。だってこれは紅茶の茶葉にレモングラスのハーブをブレンドした私特製のお茶だもの。


 この世界の紅茶は好きだけどたまにハーブティーも飲みたくなるのよね。でもハーブだけだと受け入れてもらえなくてブレンドしてみることにしたら周りの反応がとても良かった。


 だから何も言わずマシューにも飲んでもらった。


「正直に言って欲しいの……お茶…どうかしら?」


「飲みやすいよ。これは新しい商品?」


「うーん、まだそこまでは考えていないの。自分が飲みたい紅茶をいろいろ作っているところなの。マシューには試飲してもらって正直な感想を聞かせてほしいの」


「女性には好まれるかもしないね。男性にはどうだろう……」


「やっぱりそうよね……じゃあこっちのお茶はどう?」


 同じ紅茶の葉を製法を変えて作ってもらった。多分プーアル茶に近い味のはず。


 前世の記憶を思い出して何度も失敗を重ねて作り出した。本当は緑茶が好きなのだけどこの世界では好まれないのはわかっている。だからプーアル茶を目指してみた。もちろん全く同じとはいかないし、記憶が頼りだけど本で読んだりテレビで見た記憶しかないので、かなり失敗してなんとかここまで作り上げた。


 伯爵領には茶葉を栽培し紅茶を作っている小さな村があった。そこに視察に行った時に新しいお茶を作り出すことを提案した。少しでも収入を増やすための提案だった。もちろん資金は私の懐から出した。


 そしてやっと私自身が満足いく味になった。


 従業員達はまあまあの反応だった。


 マシューは……


「喉が渇いた時に飲みたくなる味だね」


 と言ってくれた。


「このお茶は、かなり前から作っていたんだろう?」


「うん、なかなか思った味が出せなくて苦労したの」


「もう少し改良したら売れると思う」


 私の顔は思わずバアッと明るくなった。


「ほんと?良かった」


 マシューの手を思わず両手で握りしめた。


「おっと…ルシナ、近すぎ!」


「ご、ごめんなさい、つい嬉しくて!だってマシューに褒められれば、もう必ず売れると言うことだもの」


「おいおい、そんな訳ないだろう」


「ううん、世界を飛び回って色んな所でお茶を飲んでる兄様だもの、口は肥えているはずだわ」


「売り方を考えないと……新しいものはみんな警戒するからね」


「マシュー、よろしくお願いします」


「うん、了解。それで、僕の話なんだけど」


「はい、何かしら?」

 なんとなく嫌な予感がする。


「君の異母妹が会いに来たと言うことは、君の父親もそろそろこの店のことを知ってしまっていると思うんだ」


「侯爵様には何も伝えていなかったけど、このお店も伯爵家の新しい事業だとか言って難癖をつけてくるのかしら?売り上げをよこせとか言ってくる?」


「侯爵家は金には困っていないはずだ。でも君が手掛けた馬車の事業や公園、子供用の絵本や玩具などうちの商会が売り出したことになっていてもルシナが発案者だと言うことは隠してはいない。今回の新作のドレスもかなり話題になっている」


「目立ちすぎている?」


「そうだね、侯爵がこのままルシナを自由にさせておくとは思えないんだ」


「……離縁した時、『侯爵家と今後一切関わるな、私を絶縁する』と伝令を受けたんだけどな」


 別に実家に帰ろうなんて考えてもいなかったのに、セバスチャンの家に侯爵家の使いの者が来て手紙を手渡されたことを思い出した。


 ほんの少しでも、あの人が私に情を示してくれたら……そう思ったのに、離縁して使い物にならない私は不要なだけだと言われてしまった。


 帰れば邪魔者でしかない。そんなのわかっていたし頼るつもりもなかった。


 マシューは考え込む私を静かに見守ってしばらく何も言わなかった。



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